~夏~第1話

「こんにちはっ」

「いらっしゃい」

 入ってきた人物を見て、僕は思わず目を細める。

 真夏の太陽の陽射しに反射して、白いワンピースを着た桜空が輝いて見える。

「あら、さくちゃん。平日に珍しい」

「店長さん、こんにちは! もうすぐ夏祭りなので、準備に駆り出されてて」

「ああ、もうそんな時期かぁ」

 店長が遠い目をしながら、花に水を遣り始める。

 連絡先を交換してから、桜空とはちょくちょく会ったり、ご飯を食べに行ったりしていた。もうすぐ夏休みが始まるから、今までみたいに気軽には会えなくなってしまう。

 そんなことを思っている僕を余所に、桜空は肩から提げていた鞄から白い筒になったものを取り出した。

「これ。毎年恒例のポスター、お店に貼るのをお願いしてもいいですか?」

「いいよー。里中くん、よろしく」

「はい」

 桜空からポスターを受け取り、レジの後ろの壁に貼り付ける。毎年、夏に行われる桜川神社の夏祭りイベントのポスターだ。

 花火をバックに映し出される桜川神社がとても美しく、雄々しくて個人的に好きな写真で、毎年じっと眺めてしまう。

「今年も相変わらず、格好いい写真だね」

「本当? これ撮ってるの、柊さんなんだ! 上手だよね」

 柊という単語に、春に会った男性の表情かおが思い出される。

 初めて会った日以来、配達に行く度によく見かけるようになった。気のせいかもしれないが、一瞬だけ敵意を向けられているように度々感じる。

「柊さんって、プロのカメラマンを目指してるんだって」

「へぇ、そうなんだ。すごいな」

 夢が特にない人間からしたら、少し羨ましい。キラキラして見える。

 桜空も夢とかあったりするんだろうか。

「夢があるってすごいよね。わたし、夢が特にないから、すごいなって尊敬しちゃう」

 まるで心を読まれたかのようなタイミングで、桜空が言った。

「そっか、実は僕もなんだ」

 彼女も特に夢がないと知り、どこかほっとしている自分がいた。

 大学三年になって、周りはインターンシップなどに参加する人が増えていて、自分だけが取り残されている気がしていたから。

「でも、神社は? 継がないの?」

「うーん、継いで欲しいとは言われてないんだ。好きなことやりなさいって感じで」

「そうなのか」

 少し意外だった。神社の家は、代々みんな次の世代に受け継がれていくものだと思っていた。だが、そうじゃない家系もあるらしい。

「悩むよね、この時期は特に」

 店長が花の状態を眺めながら、呟く声が聞こえた。どうやら、聞いていないようでしっかりと聞いていたらしい。

「そんな二人に良いことを教えよう! 夢は何歳になっても追いかけられるものだから、今焦って決めなくても大丈夫っ」

伽耶かや、たまには良いこと言うじゃん」

「でしょー……って、柊っ!?」


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