第2話

 突然の第三者の声に、店長が珍しく驚いたように振り返る。伽耶、とは店長の下の名前で、彼女の本名は楠木くすのき伽耶かやと言う。

 店先にいたのは、なんとつい今さっきまで話題になっていた、柊本人だった。僕と桜空は顔を見合わせる。

「柊! どうしてここに?」

「ちょっとお使いを頼まれてな。そっちこそ、仕事せずに話してていいの?」

「仕事は、してる」

 店長がほんのりと頬を赤くしながら、意味もなく花の棚の位置を変えたりする。

 ――――あれは、完全に動揺している。しかも何故か、二人が親しげな口調なのも気になった。桜空も同じことを思っていたのか、目を丸くしている。

「え、あの。柊さんと店長さんって――――」

「ああ、そっか。二人は知らないか。私と柊は、従兄弟なんだ」

「「ええ!?」」

 店長の言葉に柊も黙って頷く。

 思わぬ新事実に僕たちは、言葉も出ない。言われてみれば、目元とか雰囲気が似ているような気もする。

「一応、俺の方が一つ年上。伽耶の親父さんに桜川神社を紹介したのも俺なんだ。境内のバイトをさせてもらいながら、七五三とかのカメラマンもやらせてもらってて」

「その節はどうも」

 柊が自慢げに話していて、店長は少し不服そうな表情かおを浮かべながらもどこか嬉しそうに話していた。

「相変わらず、可愛くねぇな。少しは桜空ちゃんの可愛さを分けてもらえよ」

「余計なお世話だ」

 テンポよく交わされていく会話に口を挟む隙もなく、僕と桜空はただ唖然としていた。

「ところで桜空ちゃん。お使いがてらポスター配り、一緒に行こうか?」

 不意に柊が桜空の手元を確認して、さりげなく彼女が手にしている鞄を持つ。

 あまりにも自然すぎる動作に、男の僕でも惚れてしまいそうになる。

 桜空が慌てて、柊から鞄を取り戻そうとした。

「だ、大丈夫ですっ! 柊さんもお仕事が……」

「平気、平気。一緒に回った方が効率いいよ。さっ、行こう!」

 ぐいぐいと桜空の背中を押しながら、歩き出す柊。桜空が何か言いたそうにちらりと僕の方を見るが、柊に話しかけられて視線が逸れてしまった。

 嵐のように過ぎ去っていく桜空たちの後ろ姿を僕と店長は、二人でただ黙って見つめていた。

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