第10話
午前中は水族館を満喫し、その足で近くの高級そうなレストランに向かう。今日の予定は、全部彼が決めているので、サプライズ感覚で楽しく過ごせた。
「今日のレストランは、きっと茜音が喜ぶと思うな」
「そうなの? どんなお店だろ」
歩いているとやがて庭園のような入口になっているお店に辿り着いた。
「ここ?」
「そう。今日はテラスで海風に当たりながらのランチです」
「わぁ、すごいロマンチック!」
両手で拍手してしまう。私の反応を見て、彼は嬉しそうに笑い、そのまま私の手を引いてお店の中へ入っていく。
「いらっしゃいませ、菊地様。お待ちしておりました」
執事のような格好をしたウェイターが扉の前に立っていた。扉を開けずに、すぐ横の植物のカーテンのような道を歩き出す。ウェイターの後をついていくと、目の前が急に光に照らされる。
「すごい、すごい! 海だっ」
太陽の光に照らされて、海がキラキラと宝石のように輝いていた。柵のところまで駆け寄り、胸いっぱいに潮の香りを吸い込む。
「んー! 最高ぉー!!」
思わず、はしゃいで声が大きくなる。慌てて辺りを見回すが、私達二人以外にお客はいないようだった。
「大丈夫。今日は、僕ら以外は人が来ないから」
察したように、後ろから笑いながら教えてくれる彼の声がした。
「え?」
「実はここ、知り合いの店で。今日だけ貸し切りにしてもらったんだ」
「うそうそっ! すごい!!」
本日二回目の驚きだ。彼と付き合ってから、意外と顔が広い人だということを知った。本当にすごい。
私の反応を見て、満足そうに笑う彼。
海をしばらく眺めていると、後ろからぎゅっと抱きしめられる。彼の体温が背中から伝わり、心までぽかぽかに温まる。
「ねぇ、茜音」
「なあに?」
「こうやって二人でたくさん出掛けたり、ずっと一緒にいられたら、幸せだと思わない?」
「う、うん? すごい幸せだと思う」
「もっとずっと一緒にいたくない?」
「いたいよ。……正直、最近忙しそうですれ違い生活になってて寂しかった」
彼の言いたいことがよく分からなかったが、自然と自分の気持ちを素直に伝えてみようと思った。今ならちゃんと話し合える気がしたから。
胸の前に回されている彼の手に、自分の手を重ねる。
「このまま別れた方がいいのかなとか考えたりもした」
「うん、ごめん」
「でも、私は優しくていつも私を一番に考えてくれる春馬さんが好きだし、ずっと傍で笑っていたいと思うから」
彼の顔を見ようと少しだけ体をずらし、後ろを振り返る。すると、頬に一瞬何か柔らかい感触がした。間近で彼と
「結婚しよう、茜音」
左手に違和感を感じ、視線を落とすと薬指に光り輝くものが収まっていた。
「え、い、いつの間に!?」
「今。茜音がほっぺにキスされて呆気に取られてる時に」
彼がいたずらっ子のように笑う。
自分の手と彼を何度も交互に見つめる。
信じられない。桜空の予想が当たった。こんなことってあるだろうか。
「茜音、すごく似合ってるよ」
彼は、優しく微笑んだ。私はもう一度、自分の左手を見つめる。
太陽の光に当たってキラキラと輝く、大好きな人との確固たる繋がりを示すもの。
もう私の答えは決まっている。
「春馬さんに愛されて、とっても幸せ」
彼に微笑み返し、勢いよく抱きつく。
しっかりと彼は受け止めてくれた。
「僕は、茜音の傍にずっといるよ」
耳元で甘く囁かれる。
幸せに満ち溢れ、彼に恋し続ける日々。
この時はまだ、いつまでもそんな日々が続くと信じて疑わなかった。
甘く、淡い日々を――――。
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