第2話
「んー、じゃあ」と顎に手を当て、少し考え込む彼女。
元々、世間一般的に美人の分類に入る彼女は、高校生になってますます美しさに拍車がかかった。学校で告白されることも増えたらしく、その度に「今日、告白されたんだけどね」と本人の口から何故か聞かされていた。
そうして決まって、最後に彼女は聞くのだ。
『ねぇ、あたしのこと好き?』
俺は毎回聞かれる度に、返事に詰まる。相手に素直に「好きだ」と伝えられたら、どんなに気が楽か。だけど、言えない。彼女が誰を好きで、その日をどれほど待ち望んでいるのか、知っているから。
「あたしに恋の相談、とか?」
「んな訳」
「えー。じゃあ何?」
「やっぱ、何でもない」
結局、気持ちを伝える勇気が俺にはなかった。振られると分かっていて、告白しようなんてどうかしている。より一層辛くなるだけなのに。
「楓斗は素直じゃないなぁ」
まるで本当の呼び出した理由を見透かしているかのように、彼女は小さく呟いた。そして、寂しげな
彼女の欲しい言葉を言えるのは、アイツしかいないのだ。彼女の最高の笑顔を引き出せるのは――――。
「ごめんね、楓斗」
彼女は、俺の気持ちに気付いている。だが、それに応えることができない罪悪感からか、いつも最後に彼女は謝るのだ。色々な意味を含めて。
もうこんな彼女を見ているのは辛い。ずっと笑っていて欲しい。
「悠花。ちょっとここで待ってて」
「え? ……って、どこ行くのっ。楓斗!」
彼女を公園に置き去りにして、俺はダッシュで家に戻る。
居ても立っても居られなかった。
俺にできることはただ一つ。
「兄貴っ!」
「うおっ!?」
紅葉の部屋の扉を勢いよく開ける。勉強していたらしく、眼鏡姿の紅葉が驚いたように振り向いた。
「ど、どうした?」
「今……すぐ、悠花のところに……行けっ」
「は?」
「いいからっ! ……悠花のこと好きなんだろ? お前のこと待ってるんだよ、ずっと」
「ど、どういう意味だよ」
要領を得ない
もどかしい。鈍感な紅葉に少し苛立ちを覚える。けれど、ダッシュしたせいで息が上がっているのも構わず、俺は一気に捲し立てた。
「悠花は……っ! お前の言葉をずっと昔から待ってるんだよっ。ずっとずっと昔から! 気付け、バカっ。悠花の所に今すぐ行って、気持ちをぶつけてこい!!」
そこでやっと俺の言いたいことが伝わったらしい。二重で大きな紅葉の目がさらに大きく見開かれ、すぐに部屋を飛び出して行った。
「遅いんだよ……、ばか……」
俺はやるせない気持ちでいっぱいになり、その場に崩れ落ちた。久々に頬に温かいものが伝わり、しばらく動けずにいた。
どれくらい経っただろう。
頬がパリパリと音がしそうなほど涙の跡が乾いた頃ぐらいに、紅葉が帰ってきた。その隣には、嬉しそうに頬を赤く染める彼女の姿。
桜が散り、初夏を迎えようとしている中三の五月。俺の春も終了の鐘が鳴り響いた。
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