第2話

「初めまして! 新人さんですか?」

 じっと見つめていたからか、女性が不思議そうな表情かおを浮かべながら、話しかけてきた。

「あ、いえ。……もう三年目になります」

「えっ! そうだったんですか!? す、すみませんっ。新人さんだなんて言ってしまって……」 

 女性が申し訳なさそうに小さく頭を下げる。

「いえ、基本平日にシフトが入ってて。土日はあまり来ないので」

「ああ、そうだったんですね。逆にわたしは土日の方がよく来ているので」

 女性がほっとしたように、にっこりと微笑む。その笑顔に心臓が大きく跳ねる。

「ここ、うちの近くで。あ、わたしの家、すぐそこの桜川神社なんですが、分かります?」

「はい。いつも花のご注文いただいていて――――」

「なに、二人とも畏まっちゃってるの。里中くん、さくちゃんはキミと同い年だよ」

 紙束を手に奥から戻ってきた店長の声が突然、割って入ってくる。

「「えっ」」

 僕と女性の声が重なった。お互いに見つめ合ってしまい、思わず僕は目をそらす。女性が改まったように口を開いた。

「あ、あの。わたし、紺野こんのと言います。いつもうちの神社がお世話になってます!」

「あ、えっと……。さ、里中逸樹です。こちらこそ――――」

「はいはい、固い感じはその辺で。で、さくちゃん。お供えの花だけど、うちでは五セットぐらいしか残ってなくて、足りる?」

 またまた店長が割り込んできたので、僕は黙ってレジに入る。の視線を感じつつもレジ周りの掃除をし出す。

「さくちゃん?」

「え、あ、はいっ! 大丈夫です。五セット全部いただけますか?」

「はいよ。合計二万五千円ね。里中くん、領収書お願い」

「はい」

 店長が再び奥に姿を消し、台車に器に入った花束を乗せる作業をしている。僕は急いで領収書を書き、近くで待っている彼女に渡す。

「店長、手伝います」

そのまま奥に行き、店長に声をかけるとテキパキと指示が出された。

「あー、助かるわ。そっちの台車、運んでくれる?」

「分かりました」

「あ、あの、わたしも何か……」

「えっと、じゃあ……、この台車を店の表まで押してもらえますか?」

「はいっ!」

 は嬉しそうに返事をして、ゆっくりと台車を押して行った。彼女の背中を見つめつつ、店長が運んできた台車を代わり、後を追って店の外に出る。

「じゃあ、そのまま二人で神社まで運んで行っちゃって」

 後ろからついてきた店長の言葉に、本日三度目の驚きの声が出る。

「え」

「そ、そんなっ! お仕事が他にもあるんじゃ……」

「だいじょーぶ。この時間はあまりお客さんも来ないから。ね?」

 店長が僕に向かって、意味ありげにウインクする。

 もしかして、僕の彼女に対して、特別な気持ちを抱いていることに気付いている……?

 はどうしたものかと困った 表情かおをしていた。僕は店長に黙って頭を下げて、先に歩き出す。

「紺野さん、行きましょうか」

「え、あ、は、はいっ。 て、店長さん。お花、ありがとうございましたっ」

「いいのいいの。こちらこそ、いつも贔屓にしてもらっててありがたいぐらいだからさ。気をつけて、いってらっしゃい」

 手を振る店長に深々と頭を下げて、が先を行く僕を追いかけるように小走りで横に並ぶ。

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