第8話
「え、今、好きって……?」
「言ったよ」
しかも、さりげなく名前呼びだった。
ますます訳が分からず、頭が回らなくなる。
「え、え? ……いつから?」
「出会った時から」
「出会った時……から……?」
自分よりもっと前から、彼は私のことが好きだったというのか。
混乱して頭を抱えている私を見て、彼が胸ポケットから細長い短冊のようなものを取り出した。
「これ。僕がまだ赴任したばかりの頃、この学校に上手く馴染めなくて。一人でここの準備室で落ち込んでたら、茜音がこれをくれたんだ。……覚えてない?」
彼に差し出されたものは、押し花の栞だった。
――――思い出した。私が日本史の質問しに初めて、ここへ来たときだ。彼の目が少し潤んでいて、泣いてるように見えた。だから、お守りでずっと持っていたスターチスの押し花の栞を渡した。彼にピッタリな花言葉だったから。
「私の心は永遠に変わらない」
彼が押し花をそっと撫でて、呟いた。
「なにも言わずに、これだけ置いて出ていくから最初は途方に暮れたよ」
「す、すみません……」
「でも、この花を調べてみて、花言葉を知った時……、僕は何故だか救われた気持ちになった。そして、キミに恋をした。それともう一つ、黄色いスターチスの花言葉は」
「誠実」
まさに彼にふさわしい花だ。誠実で優しくて、繊細で真面目。先生の鑑だと思った。だから、私は彼のような人になりたくて、同じ道を目指そうと決めた。
「先生は、私の憧れでもあり、目標なんです。だから、私も先生みたいになりたいと思って」
「うん。素直に嬉しいよ」
「でもそれ以上に気付いたら、先生のこと好きになってて」
自然と涙が零れた。今になってやっと、両想いであることがじわじわと実感する。彼がそっと包み込むように抱きしめてくれた。
彼からシャンプーのような爽やかな香水の匂いが香る。
「ありがとう、茜音。僕のこと好きになってくれて」
私は小さく嗚咽を漏らしながら、彼にしがみつく。やっと……、やっと触れられた嬉しさとお互いに同じ気持ちだったことの嬉しさで胸がいっぱいになる。
「僕と付き合ってくれる?」
少し自信なさそうに、耳元で彼が囁く。私は返事とともに力一杯に彼を抱き締め返す。
「もちろんに決まってる!」
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