第7話

 ついに、この日が来た。

 私にとっての決戦の日。

 窓の外では桜が満開、とまではいかないが、綺麗に咲き誇っている。

「茜音ちゃん、頑張って! 教室で待ってるね」

「……うん」

 桜空に背中を押され、制服のリボンを整えながら決戦の場へ向かう。

 今日という日をどれだけ、心待ちにしていたか。あの夏、熱中症で倒れた日以来、勉強をかなり頑張った。どうしても受かって、きちんとしたかったから。

 もちろん、受験期間は桜空のアドバイスで、ちょこちょこアプローチも忘れずにしてきた。受験科目を日本史にしていたので、彼と接する機会を自然と多く作れたのだ。質問しに行ったついでに、ちょっと雑談をしたり。イベント時には、差し入れも持って行った。いつも彼は嬉しそうな表情かおをして、私を受け入れてくれた。

 少しは期待してもいいだろうか。


 決戦の場は、準備室。今日は春の門出でもある卒業式の日。みんな、晴れ晴れとした表情かおで友との別れを惜しんでいる中、緊張した面持ちで準備室へ繋がる廊下を歩く。

 心臓の音が耳元で鳴っていて、うるさい。

 だんだん近づいていくにつれ、足が震え出した。

 だが、今日告うと決めたのだから。

 扉の前で立ち止まる。

 ゆっくりと目を閉じて、深呼吸。深く息を吐いてから、扉をノックする。

「どうぞ」

 中から彼の声がするのを確認してから、「失礼します」と扉を開ける。こじんまりとした部屋の中央に机があり、そこに寄りかかりながら彼がこちらに顔を向けた。

「卒業おめでとう、本城」

「あ、ありがとうございますっ!」

 緊張のあまり、声が裏返る。可笑しそうに彼は小さく笑った。

「あ、あと合格おめでとう。よく頑張ったね」

「はいっ。どうしても、行きたかったから。大学に」

 そう、私がここまで辛い受験勉強を頑張れたのは、彼のお陰なのだ。彼と出会って、彼の後を追いかけたくて、同じ大学を志望校にした。少しでも近づきたくて――――。

「先生。あの」

「ん?」

 目と目が合う。また一気に体中が熱くなる。今、きっと顔も赤くなっているはずだ。だが、今日逃したらもう会えなくなるから。今、ちゃんと自分の気持ちを伝えないと。

「先生。菊池先生のことが大好きですっ! 無理だと分かってるけど……私と」

 最後まで言うことができなかった。

 すぐ目の前には、左右対称で綺麗に配置されている彼の閉じられた。口元には柔らかくて、ほんのりとした温もり。そして、しばらくしてから間近で開かれた彼の茶色の瞳に自分が映る。

「好きだ、茜音」

 そっと離れた唇から発せられる言葉。金縛りに合ったかのように動けない。耳を疑う。


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