第1話
わたしの名前は、
わたしと彼女は小さい頃から一緒に育ってきた仲。家族同士が仲良しで、たまたま同じ年にわたし達は生まれた。もう赤ちゃんの頃からの長い付き合いになる。
かれこれ、二十三年経つだろうか。
そんな長い付き合いの彼女がある日を境に、すっかり塞ぎ込んでしまっている。いや、正確に言うと周りから見たら、元気で明るいいつも通りの彼女に見えているだろう。
だが、幼馴染みの目は誤魔化せない。わたしから見たら、彼女の姿は痛々しくて、無理に笑って過ごしているようにしか見えないのだ。
「ふぅ」
「どうした? 桜空」
隣から心配そうに顔を覗き込んできたのは、わたしの彼氏である
逸樹は、わたしには勿体ないぐらいの気遣い屋で紳士的なカッコいい人。時々、お茶目で子犬のような面もあって、それはそれで可愛い。
そんな逸樹が、耳敏くわたしのため息を聞きつけて、気にかけてくれる。
「何か悩み事?」
今日は、一緒にカフェでお互いの仕事に関する勉強をしようということで、お気に入りのカフェに来ていた。
逸樹は、パソコンから目を離し、わたしと目を合わせる。彼の前では、隠し事は通用しない。付き合い始めてすぐの頃、身をもって経験してからは、素直に話すようにしている。
今回も大人しく口を開く。
「あのね。茜音ちゃんのことなんだけど」
「ああ、桜空の幼馴染みの?」
「そうそう。茜音ちゃんが最近……って言っても二年ぐらい前に大事な人を亡くしたことは話してたよね?」
「桜空の高校の時の先生、だっけ?」
「うん。二人が結婚してすぐに先生が白血病って診断されて」
今も思い出すだけで、胸が締め付けられる。あれだけ順調に幸せな日々を過ごしていたのに、たった一つのきっかけでガラリと変わってしまったのだから。
茜音は寝る間も惜しんで看病をしていたが、思ったよりも進行が早くて、呆気なく先生は逝ってしまった。大切な幼馴染みを置いて――――。
先生が亡くなってすぐに、葬儀などを済ませた頃ぐらいから、彼女の様子がおかしくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます