第4話

 今日こそは、と意気込んでポスターの貼り出しを口実に逸樹のいる花屋に行ったものの――――。

 隣で美味しそうにソフトクリームを食べながら歩く柊を恨めしげに見上げる。まさかの予想していなかった人が登場したために、敢えなく失敗に終わってしまった。

「ん? なに、桜空ちゃん。桜空ちゃんもこれ、食べる?」

「い、いえっ。大丈夫です。それより、後二件なので、わたし一人で出来ますから」

「いいよ、いいよ。頼まれてたお使いも終わって、俺暇だし」

 柊は、爽やかな笑顔を向けてくる。実際のところ、後残ってる二件がちょっと苦手としている小難しいタイプのご老人たちだったので、当たり障りなく誰とも接することができる柊がいてくれるのは心強かった。

「ところでさ、あの花屋のバイトくんと付き合ってるの?」

「えっ! ……げほっ、ごほっ」

 水を飲んでいた時に急に質問を投げかけられ、気管に入ってしまってむせる。

「大丈夫?」

 柊に背中をとんとんと優しく叩かれた。何回か咳き込んでからやっと普通に呼吸ができるようになり、どっと疲れを感じる。ここのところ、柊といるといつも以上に気を遣ってしまい、変に疲れてしまう。

「落ち着いた?」

「はい……。すみません」

「いやいや、むしろこっちがごめん。タイミング悪く話しかけちゃって」

 柊は優しいし、気さくで悪い人ではない。今も申し訳なさそうに眉尻を下げて、こちらの顔を覗き込んでくる。

 あまりの近さに顔が赤くなってしまい、慌てて誤魔化すように再び歩き出す。最近、どうしてか逸樹のことを思い浮かべてしまって、柊と比べてしまう。それを、打ち消すように一つ深呼吸をして、口を開く。

「さっきの質問ですけど……。わたしと彼は付き合って、ないです」

「そうなんだ。そっかそっか」

 どこかほっとしたように言葉を返す柊。そして、何かを決意したようにこちらに向き直り、じっと熱い視線が向けられた。

 何だかいつもと様子が違う。

「あのさ」

「……はい」

「良かったら、今年の夏祭りさ、一緒に回らない?」

「えっ……」

「あ、他の子と回る予定とかあったら、全然いいんだけど」

 何と返事をしようか迷っていると、こちらの機嫌を窺うように柊は話を続けた。

「俺、桜空ちゃんのことが好きなんだ」

「……!」

 さらに予想外のことを言われ、思わず立ち止まる。柊の表情かおをまじまじと見つめるが、冗談を言っているようには見えなかった。

「俺、本気だよ。返事は今すぐじゃなくていいから、真剣に考えてほしい」

 真っ直ぐに見つめられて、正直に言えば、ストレートすぎる言葉に心がぐらっと来た。だが、同時にまた逸樹の顔が思い浮かぶ。

 返事に窮しているわたしを見て、柊は苦笑いしながら、言葉を続けた。

「ひとまず、残り二件、片しちゃおうか」



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