第9話
「そっかぁ。そんなことがあったんだね」
「長い話になって、ごめん」
「ううん。楓斗くんのこと、ちょっと知れた気がして嬉しいよ」
茜音ちゃんは、すっかり飲み干してしまったアイスティーのコップの中で、ストローをくるくると回す。コップに残っている氷がその動きに合わせて、カランと小気味いい音を立てた。
「楓斗くん、スイートピーの花言葉がなにか知ってる?」
唐突な質問に目を丸くする。聞かれている意図が分からず、首を横に振った。
茜音ちゃんは小さく笑って、呟く。
「スイートピーはね、“優しい思い出”、“ほのかな喜び”っていう花言葉なんだよ」
「……!」
すぐに、何を言いたいのか分かった。
「そうか……、俺――」
「うん、きっとそうだと思うな」
皆までは語らずに、茜音ちゃんは笑う。
いつの間にか、自分の中では悠花との過ごした時間は遠い思い出になっていたのだ。気付かぬ間に、彼女への初恋の想いと共に思い出と化していたようだ。
最近、彼女のことを考えなくなったのも、そういうことなのかもしれない。妙に、すとんと自分の中で何かが腑に落ちた。
何だか気持ちがスッキリする。今なら彼女を心から祝福できる気がした。
それもこれも茜音ちゃんと出会ったおかげだ。俺の心はもう、茜音ちゃんに魅了されている。気付いてしまった。茜音ちゃんへの気持ちに――――。
「あともう二つ。スイートピーは、“門出”と“別離”って花言葉もあるよ」
まさに今の自分にぴったりだ。
先ほどの彼女の姿が思い浮かぶ。大きいお腹を抱えて、幸せそうな
ありがとう、悠花。
最高に幸せな女になれよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます