第5話

 楓斗の案内で、こじんまりとしたお家カフェのようなお店に辿り着く。事前に予約してたらしく、窓辺の陽当たりの良い席に通された。メニューもヘルシーなものを中心に魚や肉、麺類など野菜とセットの体に良さそうなものばかりだった。

 ランチメニューをそれぞれに注文し、再び二人の間に沈黙が流れる。だが、その沈黙を破ったのは楓斗だった。緊張した面持ちで、こちらを見つめる。

「茜音ちゃん、話したいことって?」

 いきなり本題だ。一つ深呼吸し、意を決する。今の素直な自分の気持ちを伝えよう。

「うん、あのね。驚くと思うんだけど……、実は私……、なんだ」

「!?」

 楓斗の茶色い目が大きく見開かれる。しかし、何かを納得したのか一人頷く。

「そっか。まだ茜音ちゃんの中には、大切な人が今でも生きてるんだな」

 今度は私が目を見開いた。楓斗は、とても優しい微笑みを浮かべている。話していて、何でも受け止めてくれる人なのだと改めて実感した。

「うん。私の初恋の人で、初めての人」

「へぇ、すごいな。運命の人、だったんだね。その方とはどこで出会ったの?」

 楓斗の言葉の節々から、優しさと亡き夫である彼への敬意のようなものを感じる。

 心が広くて、本当に優しい。どこか、彼に似ている気がした。

「彼は、私の先生だったの」

「まじか、禁断の恋!?」

 楓斗は適度なタイミングで、相槌を打ちながら話を聞いてくれた。久々に幼馴染みの桜空以外の人と昔話に花が咲いた。

 やはり、楓斗といると落ち着くし、しっかりと向き合ってくれるところが好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る