第4話

「あ……」

 驚いた声が重なる。待ち合わせ付近に楓斗の姿を見つけ、声をかけようとした時だった。楓斗が誰かと親しげに話しているのが見えた。そっと、その場を離れようとした時、何のイタズラだろうか。楓斗もこちらに気付き、目が合う。

「あ、茜音ちゃん!? こ、これは違うからねっ!?」

 楓斗は、分かりやすく慌てながら全力で誤解を解こうと否定する。ちょっと可愛い。

「彼女はその……、兄貴の奥さんで」

「え、お兄さんいたのっ!?」

 思わぬ事実に大きな声が出てしまった。楓斗は困惑した表情かおを浮かべながら、隣の女性を見る。

 女性はこちらを見て、ゆっくりと頭を下げた。

「初めまして、楓斗の義姉の山崎悠花です」

 温厚そうな人だった。にこやかに微笑む姿は、“大人の女性”という感じがした。私とは正反対なタイプだ。

 彼女は、とても清楚でお淑やかな女性に見える。ワンピースも素敵だ。一方で自分は、子供っぽいし、すぐに感情的になってしまうし、何だか情けない気持ちになる。

「それじゃあ、あたしはもう行くね」

「あ、ああ」

「若いお二人で楽しんでっ」

 含みのある言い方をして、彼女はひらりと手を振り、人混みの中に紛れていく。その後ろ姿を楓斗と呆気にとられながら見送り、無言の時間が流れる。

「え、えと……」

「お姉さん、綺麗な人だったね」

「う、うん。そうだね。昔から美人なんだよな」

「へぇ」

 少し妬けてしまう。幼い頃の楓斗を知っている彼女がちょっと羨ましい。だが、現在いまの楓斗があるのは、少なからずあの人の存在が大きいのだろう。何となくそんな気がした。

 彼女のことが好きだったのだと――――。

「そ、それより、茜音ちゃん! お腹空かない? 茜音ちゃんが、好きそうなお店を昨日見つけて」

 楓斗が急に話題を変えた。それに合わせて、自分も気持ちを切り替える。今日は、楓斗に伝えたい大事な話があって、会いに来たのだから。

「うん、行こっか」

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