#10 同期なのです!

「先程はありがとうございました」



痴漢をしていた男性は、被害者である少女と目撃者である花鈴の証言、そしてさらに

写真と言う名の証拠によって、警察へと連行された。


「いえいえ、そんな…」

「何かお礼が出来るといいのですが、私、もう行かないといけなくて……」


しょぼ、とする少女だったが、それは花鈴も同じだった。余裕を持って外出したは

したが、そこに警察と会話用時間なんて当然含まれているハズもなく。刻一刻と

時間は迫ってきていた。


「別に、お礼は大丈夫です。私も、その…痴漢の写真なんか、撮っちゃいましたし」


いくら証拠のためとはいえ、少女の恥ずかしがる姿を撮ってしまったのだ、

申し訳なさがないわけではない。ちなみにその写真はと言うと、警察の方に

コピー転送された後、キレイさっぱり削除した。


「そ、そうですか?ごめんなさい、助けてもらったのに……。」

「大丈夫ですって。じゃあ、さよなら」

「あ、はい!」


そう言ってスタスタと歩き始めた花鈴だが、なぜか少女も着いて来る。そのことに

驚く花鈴だが、それは少女もだった。


「あの…もしかして、道、おんなじだったり……」

「みたい、ですね……?」


はははは、と二人で苦笑しながらスタスタと歩く。どこまで一緒なんだろうか。そう

思ううちに、{flowerアレジメント}前に着いた。そして振り返ると、少女は目を丸く

しており、


「あ、あの、スタッフ、さん…ですか?」

「えっ?ああ、いや、違い、ますけど…」

「Vtuberのお方ですか?」

「いや、もうすぐなる予定、です……?」

「…三期生?」

「ですね」


そう言うと少女はパアア、と顔を明るくさせた。


「私もなんです!初めまして!!」

「は、初めまして!!」


ガシ、と勢いよく両手を掴まれて驚きつつも挨拶をしかえす。少女はアルビノなのか

白色の三つ編みを揺らしつつ、水色の目を大きく開いて嬉しそうな表情をした。


「私、水樹みずきユイって言うんです!貴方は?!」

「は、はい!私は円華花鈴です!!」

「良かった、じゃあ後でお返しが出来る…!「お、来たね」」

「わっ?!」

「ぴゃあっ」


少女の勢いが良い自己紹介に反射で返していると、二人の間に入るようにヌ、と

金華が割って入った。突然のことに二人で情けない声をあげる。


「ははは!何もそんな、驚かなくてもいいじゃないか。ささ、はやくおいでえーっと…。まだ13時48分だから間に合うと言えば間に合うけど、君達で最後だからね。」

「あ、すみません…!」

「むー…、最後……。」

「いやいや、14時集合だっていうのに、皆気が早いのか時間調整が速すぎたのか、ねぇ……。君達が気に病むことはないよ。」


陽気に笑いながら、金華は二人と共に事務所内へと入っていく。入り組んだ通路を

いくつか抜けると、そこは一昨日オーディションを受けた社長室だった。


「ここに、君達と一緒に活動する仲間となる三期生がいるよ。」

「三期生が…!」

「仲間が…!」

「楽しみかい?」

「「はい!!!!」」


二人息ピッタリで言うと、金華はクスッっと笑った。


「楽しみでなによりだ。……入るよ。」




「あ、来た来た!」

「これでゼンインそろったな!うー、キンチョーするぞ!!」

「ふっふっふ、これでわたくしの糧となる者達が集まりましたわ!」

「言ってるのあなた」


そんな会話を交わす中に、花鈴は一人の人物を見つけた。


「愛ちゃん!!」

「花鈴!!よかった、合格してたのね!」

「はいはい皆ー、こっちに集まって」


キャーッ、と二人で両手ハイタッチをして嬉しそうにする横で、

社長椅子に座った金華がパンパンと手を叩く。慌ててユイと共に花鈴は社長机の

前へと集まる。すると金華は一拍間を開けてから息を吸い、話を始めた。


「改めて、この場で言わせてもらうよ。――おめでとう。君達がこの{flowerアレジメント}の三期生…新たな仲間だ。」


そう金華が言うと、各人はフフン、と満足げな顔をする。数々のライバルを蹴り

倒し、見事オーディションに合格したのだ。それを改めて認識させられると、

憧れた夢へと近づいていることも確信出来て、嬉しさがこみあげてくる。


「さて、三期生として正式に公表するにはVtuberとして君達の代わりにネット上で活躍してくれる子を2Dモデルで作らないとね。そこで、きちんと絵師を呼んでいるよ」


そう言うと金華は入ってきていいよと、あの日花鈴が社長室から出たドアが開き、

明るい茶色で、染めているのか先っぽが黒い髪に橙色の目、グレーのニットと

白スキニーに茶色のスリッパというラフな格好をした女性と、

白いシャツのオレンジ色のパーカー、デニムパンツの男性が入って来た。


「二人共、自己紹介を」

「オッケー。私は花芽掬かがやきく、この事務所専属の絵師よ。」

「俺は紅勇守べにいさみまもる。同じく、この事務所専属の絵師だ。」

「三期生は6人。今からこの二人には3/3で別れたチームの担当絵師になってもらうわ。そうね、組み分けは……。」


そう言うと金華は右手をあごにそえながら、左手で支持をした。


「水樹と防良木、円華のは掬。雪野と千鳥、ルカのは守に2Dモデルの作成をしてもらおう。そうなれば、皆の性格に相応しい花言葉を持つ花はすでに決めているから、そこから命名しなければな……。よし、少し話し合う必要があるな。守、この子達を待機室へ」

「おうよ、任せてください…さ、嬢ちゃん坊ちゃんはこっちだぞーーー」


金華に頼まれた守は快く引き受けた後、円華達に部屋から出て待機室への道を

案内した。

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