#11 自己紹介です!

「じゃ、君達はしばらくそこで待機しててくれ。そこの茶や菓子は好きに食べてくれていいからな。」


そう言うと守は三期生全員を待機室へ入れた後、軽く手を振ってドアを閉め、

社長室へと戻って行ってしまった。

待機室は社長室の小さいバージョンと言った感じで、白い壁に黒めの茶色い床に窓は

なく、黒いソファ二つとその間に透明パネルで出来た机、その上にお菓子とお茶。

そして観葉植物が一個だけだった。


「………」

「………」

「………」

「あ、これはこれで食べられますわね」


喋るものがなく全員が黙ってしまう気まずい中、一人の少女のお菓子を頬ばる音が

響く。ポリポリと食べているそれは、甘いチョコでコーティングされた、ちまたで

人気のチョコックッキーだ。


「んー、ダマってしまうのもなんだかMOTTAINAIもったいないし?自己紹介でもしよっかーー」


すると、一人の青年が黒いソファの背もたれに乗っかり、足をプラプラさせながら

声をあげた。


「そ、そうですね、せっかくならここで、三期生全員を知るというのも……」

「決まりね、じゃあオレからいっきまーす」


ユイがここぞとばかりに頷くと、青年は上機嫌さながらに左手を挙げて自己紹介を

始めた。


「オレは蒼汰そうた・ルカ、20サイ!この三期生ユイイツの男だヨ!父親が外国人で、母親が日本人でーす。日本語がカタコト?っぽいのはユルしてね」

「わ、私は水樹ユイ、アルビノの15歳です!誕生日が早生まれなので15歳ですけど、ちゃんと高校生です。私はルカさんと逆で、父親が日本人、母親が外国人です!よろしくお願いします!!」

雪野凛ゆきのりん、17歳。」

千鶴彩ちづるここあ、18歳ですわ!わたくしの両親はどちらも日本人。そして、ここの貴方達は私が有名となる糧になるんですの!!」

「何言ってんのコイツ」


蒼汰、ユイ、凛、彩の順で自己紹介をしていく。蒼汰は明るく元気、ユイは内気で

優しい雰囲気(ただし痴漢の件の最後らへんは別人だったが)だ。凛は大人しく

ツンケンとした感じで、彩は高慢なお嬢様だ。三期生全員の前で高らかに宣言した

彩を蔑むような目で見る凛に彩は「なんですのっ」と反論している。


「はいはい、私は防良木愛。16歳よ。成り行きで三期生になったんだけど…ま、よろしくね。」

「私は円華花鈴、16歳です!夢は…“世界一のVtuber”になることです!!!!!!」



――“夢を大きく言えるのは、良いことだ”



花鈴の脳裏に、オーディションの時金華から言われた言葉が浮かぶ。自己紹介をする

ことでとっさに出てしまい、花鈴はハッとする。その言葉を聞いた三期生は

オーディションのときに聞いていた愛を除き、硬直して目を丸くしていた。

――が。


「あははははは!イイじゃん!イイネ、キミ!イイ夢をお持ちだよ」

「はぁーーーーー?!貴女、このわたくしを置いて世界一になるというんですの?!そんなの認めませんわよ!貴女はわたくしが有名になるための糧になるんですっ」

「すごいです、花鈴さん!夢が大きいです!!」


蒼汰の笑い声を皮切りに、我に返った彩が慌てたように人差し指を花鈴に向けて

反論し、ユイが素直に花鈴へ拍手をした。


「やるじゃん、花鈴」

「え、あ、その、今のは言うつもりじゃなくて、とっさで……」


あたふたとしながら花鈴は言うが、愛にふふふ、と笑われてしまった。夢を大きい

声で言った挙句赤面する花鈴が面白いのだろう。


「…やめて。」

「えっ」


ふと、うつむいていた凛から低い声が漏れた。


「“世界一のVtuber”?何それ、おかしいよ」

「それは……」

「ちょっと何よ、やめなさいよ」


見下すように鼻で笑う凛に怯む花鈴。それをかばうように、愛が即座に反論した。


「世界一のVtuberなんて夢のまた夢。現実はそんなカンタンにうまくいかない。幼稚園みたいな妄想は虚しいからやめて」

「……!」

「ひ、ひどいよ雪野さん、それはさすがに……。」

「そうだね。雪野サン、それはドをこしすぎだと思う」

「わたくしだってなれるならなりたいわよ、夢を潰すんじゃないわよ!!!」

「そうよ!なら貴方は何のためにVtuberを志望したの!!!!」


傷ついた顔をする花鈴を見て、ユイも凛へと反論し、蒼汰は首を振った。彩も自身の

持つ夢に似た夢が傷つけられたことに怒り、愛が凛へ問うと、

凛はしばらく押し黙った後、こう言った。


「わたし?わたしは夢なんて持ってない。夢をもつこと自体が無意味。おかしいとしか言えない」

「だから、それなら志望した意味は「三期生達、おまたせ!」」


愛が不機嫌な顔をして凛を問い詰めようとすると、待機室のトビラが元気よく

開いた。守さんだ。しかし守さんは怒ったような顔でいる愛、傷ついたような顔を

する花鈴、それを支えるように傍にいるユイを見て、頬をポリポリと掻いた。


「えーっと……お邪魔しちゃ悪かったかい?」

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