#閑話 とある少女のお話です!

『おかけになった電話番号は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません。ピーと言う発信音の後に、お名前と、ご用件をお話しください』



淡いピンクを基調とした、可愛らしい部屋で一つの機械音が鳴り響く。天蓋付きの

ベッドでたたずむ少女は、ため息を吐くとスマホの電源を切り、寝転ぶ。


「(…今日も、出てくれなかった)」


彼女が電話をかけていたのは、幼い頃からの親友だ。気が強くて男勝りだけど、

優しくて、少し泣き虫な可愛い親友。幼い頃からよく自身の後ろを歩いて来た親友。

そんな親友はかれこれもう一年音信不通である。別に、行方不明とかそういうワケ

ではない。学校が一緒というワケではないけれど、親友の両親にはよく会っている。


音信不通になった日から親友と会うことはなかった。けれど彼女はある日、親友と

再会した。喜びの余り歓喜余って話しかけるも返って来たのは怒声だった。

久しぶりに会う親友は、姿こそ変わってなかったものの、自身を睨みつけていた。

まるで、自身を嫌っているかのように。


「(私、何かしたかな…?でも、何も思い当たることは……)」


少女は首を振り、思考を変える。もうすぐ親友と、また相まみえるのだ。そこで

何かわかればと思う。


「うん、そうしよう」


そう少女は一人でに呟くと、ピンク色でパーカーのような寝巻きを着たままベッドの

上にPCを出す。そう、彼女もVtuberなのだ。


「モデル、マイク…よし。配信状況も…うん、バッチリ」


そう言うやいなや、彼女はSuifishにメッセージを打ち込んでいく。配信が始まるのを

伝えるためだ。そしてまだモデルは出さず、「ただいま準備中です」という画面を

出して配信を始める。すぐさま一人、また一人とリスナーが集い、コメントを

し始めた。まだマイクは繋げていないので、今のうちにジュースを飲む。

そして寝る用意等を済ませて初めて、配信を始めるのだ。


「そうだ、イベントも決めちゃわないと」


彼女はPCからメモ帳アプリを起動し、文字を打ち始める。

もうすぐ「三期生コラボイベント」なるものが始まり、そこに自身が一日だけの

司会として登場するのだ。なのでその時のイベントを考えなければならない。

まだ配信の15分ほど前なので、今のうち思い浮かぶ候補を決めておかなければ。

そうしたら仲間全員で集まって、誰が何をやるか、話し合うことが出来る。


コンコン


ふいに、部屋のドアからノックが鳴った。彼女は余裕を持って早めに配信画面を

出す。あと10分、何の用だろうか。


「あれ、レイアちゃん。どうかしたの?」


訪問主は、明星アンジュことレイアだった。彼女とは知り合いで、仲良く遊んだり

している。


「お知らせがあって来たの」

「お知らせ?」

「うん。一日目の司会は一期生のヒマさんに決まったらしい、以上」

「うぇ?!あ、え、あ、うん、うん、わかった、アリガトネ…」


驚きの余り素っ頓狂すっとんきょうな声を上げてしまうが、なんとか報告を

しに来てくれたレイアにお礼を言い、手を振ってドアを閉める。


「(まさか、一期生が参加するなんて…どうしよう、一期生の後じゃ霞んじゃわないかな??)」


はやる気持ちを抑えながら、彼女はベッドへと戻り、PCを触る。マイクを接続し、

ソフトを再生し、モデルを出して、配信スタートだ。


「やっほー!みんな、今日も来てくれてありがとーーーーっ!!」


・待ってました!

・これが生きがい[\20000:くるまもり、さんから]

・巻貝

・うぽつっす、今日も元気っすねぇ~。

・うぽつ

・マジ待ってた。もう15分前から待ち切れなさすぎる


彼女がモデルを画面に出し、マイクを通して挨拶をすると、リスナーがすぐさま

反応して挨拶を返す。それに彼女は微笑み、会話を始めていく。


「うんうん、そうだね!今日だって……」


・いやー、声が癒されますわ

・まさに俺たちの“希望”!

・“希望をくれる聖女”の異名はダテじゃないぜ…[\30000:ナニニン、さんから]

・よっ、くるふく大統領!

・ニキ褒めるなww


「あはは、ありがとありがとーー!」


次第に頬を緩ませて、打ち解けるように彼女は自身のリスナー達と会話していく。

そう、彼女のVtuberとしての名前は「車福ハピ」。二期生唯一の3Dモデルであり、

二期生として、「一期生にもっとも近い」と言われたVtuberである。

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