#2 オーディション本番です!
「君が円華花鈴…ちゃんかな?」
社長室には観葉植物が二、三個置かれており、茶色い本棚やアンティーク収集が
趣味なのだろうか、結構古そうな食器が入った食器棚もあり、壁には色んな人が
写った写真、そして中央には社長用の椅子と机、背後には白いレースのカーテン
のみ。応接室のような部屋、という印象だ。
社長室に入った花鈴は、社長机の真ん前に置かれた木製の椅子に座る。黒い
社長椅子に座るのは、30代ぐらいの女性だった。所々金髪のメッシュが入った、
緩やかウェーブの明るい茶髪に、赤茶色の目、黒いスーツ。緊張はしたくないが、
どこか上品で気品を感じさせる社長の前に、やはり緊張してしまう。
「ぁ、はい、円華花鈴でしゅっ、…あ、嚙んじゃった……。」
「はっは!やっぱり緊張しているのかな?」
「すみません……!」
「いいよいいよ。緊張は、誰もがするものだ。徐々にリラックスしてくれればいい。私はこの{flowerデザイナー}の社長、
そう言うと金華は座っていた椅子から立ち上がり、花鈴に右手を差し伸べる。花鈴は
少し
うんうんと頷くと、金華は社長椅子の場所へ戻り、再び座る。
「さて、ここからは本題だ。君にいくつか質問をする。それを、答えてもらおう。」
「はい……!」
「嘘偽りなく話すんだよ。隠したいことがあれば前置きして話してくれれば、私も口外しないと誓おう。未来の仲間の一人になるかもしれない子の個人情報を漏らすことで、輝かしい未来を閉じさせたくはないからね」
金華はフッ、と笑う。どうやら仲間想いの社長のようで、この思いやりが数多くの
有名Vtuberを輩出してきたのではないだろうかと、花鈴は思った。
「準備はいいかい?」
「……はい!いつでも」
「良い声だ。では、始めよう。」
その声を皮切りに、オーディションもとい面接における質問タイムが始まった。
「まずは自己紹介をしてくれ」
「えと、円華花鈴、16歳です!高校生にまだなったばっかりで、ガーデニングが趣味です。」
「ふむ……。では、君の強みは?」
「逆境に耐えることです。これはまだ、受験のときにしか経験していないのですが、逆境に耐えるのは、自分の新しい力を生むためのものだと思っています。」
「良いね。志望動機は?」
「中学時代に弊社のVtuberの配信を見て、憧れを持ちました。皆とてもキレイで、キラキラ輝いてて……。いつしか、夢を持ちました。その夢を叶えるために今日、オーディションを受けようと、思いました。」
「嬉しいことだね。長所を教えてくれるかい?」
「誰とでも仲良くなれることです!あと、ガーデニングが趣味なので、花言葉を暗記しています!!」
「……逆に短所は?」
「勉強が苦手です……。」
「入社後にしたいことはあるかい?」
「Vtuberとして配信活動をして、皆を楽しませたいです!それといつか3Dモデルを手に入れて、歌って踊りたいです!!」
「そうだね、これは個人的なことなのだけれど、この事務所のVtuberに尊敬する人がいれば教えてほしいな」
「桜羽月さんです!私の、憧れのVtuberです。なりたいと、思わせてくれたきっかけの人です。」
「……うんうん。よし!質問は終わりだ。リラックスしていいよ。」
「は、はぁ…。」
質問内容は少なかったが、高校受験の時に面接を経験したばかりの花鈴には
分かった。これは、面接のときによく出る質問ということを。
「(おかげで、答えやすかった……。)」
このオーディションは高校または大学生の人のみが受けられる。もしかしたら
そうやって、経験したばかりで答えやすい質問をすることで、その人がすらすらと
答えてくれる。そこからその人の相性を聞き出そうとしているのだろうか。
「ふむ、自己紹介がすこし少なかったかな。」
「え、やっぱり……!」
「大丈夫だよ。自己紹介というのはテンプレートがなければ、基本的には答えずらいものだからね。志望動機も良いし、何より“逆境に耐える”末の力のことを理解しているのはとてもいいことだよ。ちなみに、君の夢はなんだい?」
「!世界一の、Vtuberになりたいです!!」
そう花鈴が言うと、金華は目を丸くした後、笑顔になった。
「夢を大きく言えるのは、良いことだ。言えなければ、その夢に対する度胸がない証になってしまうからね。なるほど、月が憧れなのはその影響かな?」
「はい!今はまだ、合格したらの話ですが……。いつか月さんと一緒に、3Dモデルでライブをしたいです。私、この夢を叶えることで、昔の私みたいに、他の子に夢を与えてあげたいんです」
「うんうん、良い夢だ。かといって、君が合格するかは他の子次第。明日にはきっと通知が来るだろうから、待っていてくれたまえ。」
そう言うと、金華は入って来たドアとは作りが同じだが、また別のドアを指した。
「そこから出て廊下をまっすぐ行けば、スタッフがいる。その人が外まで案内してくれるからね」
「あ、ありがとうございます……!」
微笑む金華に花鈴はお辞儀をすると、ドアから出て行った。
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