#18 お手紙です!

「親愛なる花鈴へ…?」



『親愛なる花鈴へ。


 届いた荷物は見たかい?2Dモデル、気に入ってくれると嬉しいんだけど。掬は

 あぁ見えて初めて2Dイラストを描くから、一期生や二期生のイラストを描いた

 他の絵師達に色々聞いて回っていたよ。その末に出来たものだから、喜んで、

 気に入ってくれていると嬉しいな。機材については、本の説明書を見てほしい。

 そうだ、本にサインはあったかな?君は月のファンだ。お節介かもしれないが

 花鈴が月のファンだと知って、喜んで自ら書いてくれたんだ。

 

 配信についてだが、まずは三期生全員でのコラボ配信から始めようと思う。

 この手紙が届いたころには、すでに事務所からWorTubeにPVが投稿されている

 はずだ。2Dモデル、その本では紙だが、本番ではきちんと動くから、安心して

 ほしい。デビュー記念のコラボ配信を行うためにリハーサルなどを一度したい。

 そのとき事務所で渡すよ。日程と、機材は その本に書いてある。どうしても

 わからなかったら、遠慮せず電話してくれたまえ。

 君の活躍を期待しているよ。


                               鳳蝶金華より』



「PVが……」


手紙を読んだ花鈴は、慌ててスマホで確認する。どうやら今日の深夜に投稿された

ようで、三期生の名前や担当花と共にイラストが紹介されているPVがあった。


「“空風緑”、“百合園スイ”…愛ちゃんとユイちゃんのだ!」


PVに同期で新しい友達のイラストを見つけ、可愛い…!と花鈴はこぼす。自身の

イラストは緑よりも黄色を基調としているが、愛のイラストは全部が緑、

ユイのイラストは南国モチーフの赤と白…紅白が特徴的だ。

他のイラストは蒼汰、凛、彩の2Dモデルだろう。しかし、誰が誰のかは聞いてない

のでわからない。でも、他の花はどうやら“シロツメクサ”、“ストレチリア”、

“アジュガ”らしい。アジュガってなんだろう…。


「そうだ、海里ちゃんに報告しないと!」


慌ててスマホでカメラ機能を起動させ、本から叶希のイラストを開いて撮る。

そしてメールアプリのNYAINにゃいんから写真を送る。

すると、すぐに既読がついた。今日は休日だから、作詞作曲をしているだろうか。

そう思うと、後で送ればよかったと後悔する。報告したいばかりに

考えていなかった。およよ…としていると、メッセージが届いた。


『いいじゃん、おさげも残してもらって。』

『そういえばカモミールって“マザーグース”って言われててさ。りんごの香りがするらしいよ。予期せずとも、花鈴のりんご髪留めとおそろでgood!ってカンジ』


イイネ!の白うさぎのスタンプと共にメッセージが送られてきて、花鈴は微笑み、

ありがとう、と頭を下げている鳥のスタンプを返し、スマホの電源を切った。

そして机の上に入学式の日、父から送られたPCの電源を入れる。さすがにPCは

自分で買おうと思っていたものの、いきなりのサプライズにあわててお金を払おうとしたが、「入学祝いだから」と父に笑わられながら断られた。ありがたい。


すでに設定は完了し、ブラウザも開けるようになっている。アカウントは新しく

つくり、名前を叶希とした。スマホが自分、PCがVtuberとしての自分だ。

もちろん、WorTubeの公式アカウントと月のアカウントのチャンネル登録は忘れて

いない。カメラは配信に必須。けれど、いつの間にかカメラにウイルスを入れ

こまれて盗撮されている…というのを防ぐため、コンピューターをウイルスから

守るためには厳重なガードをしなければならない。

本から機材のページを開き、ダンボールの機材を机に広げて一つ一つ確認していく。


「これがマイク…このPCのUSB接続を確認しないとダメかぁ。雑音が入るかは事務所で確認済みだから大丈夫だね。カメラはWebカメラを使えばいいし、アニメーションソフトや録画と配信が出来るソフトを入れないといけないけど…良かった、指定がある」


万が一モデルが動かなかったりするとき、全員のソフトがバラバラだと大変なため、

ソフトは指定されている。


「うん、ダウンロード完了!詳しい使い方はモデルが届いてからとして…、」


そう言うと花鈴はサイン色紙を手に取る。


「これ、どこに飾ろう?神棚のように飾る…いや、あんまりこうやって指紋をつけるのはよくないから額縁にいれよう。それに痛まないよう、日のあたらないところへ…。」


そう言うと花鈴は部屋の隅に置かれた額縁を持つ。ベッドの隣の壁には、月の

イラストやポスターが額縁に入れられて飾られていた。もちろん、日は当たらない。

額縁の場所を色々と動かして、額縁に入れたサインを飾り、花鈴は満足そうに

息を吐いた。


「あ、そうだ、日程って」


思い出し、慌てて花鈴は本をめくる。すると一番最後のページの右下に書かれて

いた。


「この日に行けば…。愛ちゃん達、元気してるかなぁ」


そう言いながら花鈴は本とPCを閉じ、机の上へ丁寧に置く。マイクはもう一度

ダンボールに入れ、母が間違って捨てないように


“マイクが中に入っています。勝手に捨てるの禁止!”


と太いペンで書く。あとで母親にも言って聞かせようと、花鈴は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る