バーチャルで“てっぺん”目指したい!~けど、そうカンタンにはうまくいかないようです~
月出 四季
夢への第一歩、三期生です!!
#1 スタートラインに立つんです!
「ここが……!{flowerアレジメント}だぁーーーーーーーーーー!!」
ある春の暖かい朝、一人の少女の声が響いた。彼女は
茶色の髪の毛をおさげにした、金色の目の少女。誕生日は3月14日、好きな食べ物は
アップルパイ、好きなことは動画を見ること、そして夢は……“世界一のVTuber”に
なることだ。
そんな彼女は現在、{flowerアレジメント}という事務所に来ている。自分の夢を
叶えるために。この事務所は今もなお、数多くの有名VTuberを出していることで
とても人気のある大企業だ。
「…はっ」
キラキラと事務所を見つめていた花麗愛だったが、周りの人の視線で我に返る。
憧れの事務所の目の前にいることで感情が抑えきれなかった花鈴は恥ずかしさで
赤面するが、慌てて事務所内へと入る。事務所入り口の門には、
“{flowerアレジメント}3期生オーディション会場はこちら→”
と書かれたビラが貼られていた。
「ねぇ、君もオーディション受けるの?」
オーディションについて書かれた、応募者用のパンフレットを持って事務所内へ
入った花鈴。事務所内に居たスタッフの案内でオーディション本番を待つ人達が、
社長室の前に置かれた青い椅子に座って並んでいた。
「は、はい!受けます……!」
「そうなんだ!私と一緒だね!!」
ふと、自分の一個前の椅子に座っていた少女に声をかけられた。少し赤紫っぽい
髪のポニーテールに、丸く大きい茶色の目、可愛らしい声。花鈴の第一印象は、
“元気そうな子”だった。
「私、
「ま、円華花鈴です!あなたも三期生に?」
「そうだよ!このパンフレット可愛くない?」
愛も三期生希望のようで、花鈴にパンフレットを見せてきた。パンフレットの
一ページ目には七色の背景と共に、“貴方も一緒に楽しいVTuberライフを…”と
書かれている。
「うーん…、七色の配色もキレイだけど、やっぱり本題は中身ですよね?」
「そうそう!分かってるね~、君!!」
愛が笑ってそう言うと、パンフレットをバッ、と開いた。まぁまぁのページ数がある
パンフレットには、一期生~二期生の紹介がされており、先に紹介されている
二期生は二、三人が一ページにまとめられて紹介されていたが、一期生のみ一人
一ページだった。そして一期生紹介の一番最後のページは、二ページどんと使われて
おり、一人のとあるVTuberが紹介されている。
「これ、
「丸々二ページ使うなんて、やっぱり運営は分かってるよね~。」
花鈴が慌ててそのページを開くと、愛は満足げに頷いた。
桜羽月は、{flowerアレジメント}の一期生で、青く少し波たつ長い髪、ツノのように
飛び出た、桜色のアホ毛メッシュ、若草色の目をしたその姿は、名前にある“桜”を
想像させた。{flowerアレジメント}のVTuberは皆、花に関する名前で活動している。
月は今のバーチャル界のメイン的存在で、チャンネル登録者数は約400万人。現在の
VTuber登録者数や再生数もトップをほこる、まさに世界一のVTuberと言える。
すると、入り口前に居たスタッフがスマホを見た後、愛の一個前の少女を呼ぶ。
もうすぐオーディション本番だ。先程までワイワイ喋っていた花鈴と愛に緊張が
はしる。
「あの、愛さん」
「愛でいいよ!どうかしたの?」
「このオーディション…っていうか、面接、社長本人だけの前で……?」
「そうみたいだね…。うぅ、緊張する…!そういえば、花鈴は何でこのオーディションに?」
お互い顔を強ばらせる。普通オーディションには社長の他に、何名かスタッフが
入る。だがこの事務所の社長は、一対一でのオーディションを開催したのだ。
「私は…“世界一のVTuber”になりたいんです!中学生の頃に、動画を見てからすごい、やってみたい、って……。だから、桜羽さんに憧れてて、それで、その桜羽さんが所属するこの事務所がオーディションするから、慌てて応募したんです。」
「なるほど。私も同じだよ!でも、私はつい最近かな、そう思ったの。それで調べてみたらここでオーディションやってるって。だから、成り行きみたいな?ここの事務所は応募したら全員合格。社長さんも大変そうだよ」
「次、防良木愛さん。」
「あ、もう?…じゃあね、花鈴ちゃん。もし合格したら、また会おう!」
「あ、はい!ありがとうございました!!」
愛が席から立ち、手を振りながら社長室へと入っていく。一つ空席になったため、
花鈴がそこに座り、その後ろの子がさらに座り…。そうやって、次に自分が
呼ばれるのを待った。
愛ちゃんは大丈夫だろうか。自分は合格出来るだろうか。中学時代から夢見た場所に
今、自分はいる。一期生も二期生もかつてこの椅子に座ってオーディションをしたと
いう。名のあるVTuberが皆、この椅子に座って、緊張していたのだ。きっと、
桜羽さんも。
「(ダメダメ、緊張したら…!)」
花鈴は思わず首を横に振る。ここで緊張してしまえばきっと、初めての配信なんて
乗り越えられない。そしたら当然、今目指している合格も夢のまた夢。
だからしっかりしないと。気を紛らわすために、パンフレットを読み直す。桜羽の
ページには、3Dモデルで歌って踊ったりしている様子や、もちろん2Dモデルでの
普段の配信シーンも載っていた。桜羽の服はどれも着物または浴衣だ。本人の
趣味でもあり、きっと、日本を象徴する桜と着物のマッチでもあるのだろう。
「次、円華花鈴さん」
「は、はい!」
スタッフに呼ばれ、慌ててパンフレットを閉じて席を立つ。スタッフが社長室の
濃い茶色のドアを開け、そこに入るよう促す。
――ここが私の、スタートライン?…ううん、違う。三期生として配信して初めて、
自分の夢を叶えるためのスタートラインになる。だから合格して、
スタートラインに立つんです!
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