#15 花鈴の日常です!
『おはよう!!!!!!!朝だよ!!!!!!!!!!!!はよ起きろーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「わーーーーーーーーーっだあああい!!!」
けたたましく鳴る目覚ましに花鈴は勢いよく飛び上がった拍子にベッドから転げ
落ちてしまった。最初の声は目覚まし時計から流れており、その声は言うまでもなく
月だった。
「あれぇ、こんなボイス大きくしたっけ…?」
転げ落ちた拍子にぶつけた膝と、眠さからくるかゆみを今現在受けている目をこすり
ながら音を止めた目覚まし時計の裏を見る。この時計は月が半年ほど前にふざけて
モーニング配信をしたときに発した声で、面白がった金華が商品化したものだ。
売れたことに一番驚いていたのは本人で配信で発狂していたのを覚えている。
この目覚まし時計は音量調整が1~5になっており、5が最大だ。いつもは中央の3に
しているのだが、昨日寝るときに寝ぼけたかなんかしたのか、5になっていた。
音量を3に戻してベッドに置き、飛び上がった拍子に一緒に落ちた若草色の毛布を
ベッドへと戻し、あくびを一つ。
「うぅ、朝からこんな頭に響くとは……。」
もちろん、これは推しの声なので問題はない。しかし耳へと響く振動が問題だった。
だけで、断じて推しの声が悪いんじゃない、断じて。
ベージュに近い茶色の木製クローゼットを開けて、白いブラウスや緑色のスカートに
白い靴下を出して、あくびをしながら自室のドアを開け、洗面所へと向かう。途中、
自身の母親に会った。
「あら、おはよう花鈴。」
「おはようお母さん…」
「どうしたの、元気ない」
「何が起きたのか目覚ましの音量が最大になってて、耳が……。」
そう花鈴が言うと、母親はあぁ、という顔をした。
「気を付けてね、そのうち鼓膜が破れますよ」
「ひえっ、気を付けます……。」
うー、とうめきつつ、洗面所へ。自室から廊下を右へ進み、途中で左を向くとドアが
ある。そこが洗面所だ。ちなみに向かずに真っ直ぐ行くと納戸がある。ドアを
開けて、向かって右にある洗面所の蛇口をひねって、顔を洗い、歯磨きをし、服に
着替える。脱いだパジャマは白いプラスチックのカゴへ。そして髪を結びなおし、
りんごのヘアゴムを付ければ洗面所から出て、リビングへと向かう。納戸の方向の
廊下にはまだ曲道があり、納戸の方を左に曲がれば真っ直ぐにキッチン、右側に
リビングだ。リビングには父親がおり、木製机の両脇に置かれた四人椅子の奥左に
座りつつ書類を見ながらコーヒーを飲んでいる。
「おはよ、父さん」
「あぁおはよう、花鈴。目覚ましの音量が大変なことになってたんだって?」
「なんでだろーねー……」
ははは、と苦笑しながら隣に座れば、母親がサンドイッチと麦茶を出してくれた。
そして母親は花鈴の右隣にあった白いレースカーテンを開ける。白い日差しが入って
きて、おもわず花鈴は目をほそめた。
「今日は何か予定があるの、花鈴?」
「ううん、今日は特に」
「そのばーちゅーばー?とやらの予定はないのか?」
「うん。2Dモデルっていう、PC内での自分の姿が出来上がるまで暇になるよ。」
「入学式があって、もうすぐ高校でしょう?大丈夫なのかしら、両立は」
花鈴の高校はもうすぐ入学式だ。オーディションは4月2日。入学式は4月7日。
つまり、あと二日だ。
「うん、最初は運営からのイベントにそって配信していくから、ソロ配信は高校とか、大学の授業が落ち着いたころに行うって」
「まだ高一だからいいが、高三になったら大学についても考えるから、今のうちに楽しんでおきなさい」
「そうね。今のうちに叶えたい夢、叶えちゃいなさい」
「うん、ありがとう!」
微笑みながらそういう両親に花鈴も微笑みながらサンドイッチを口に詰め込みお茶で
流し込み、皿とコップをキッチンに置いて自室へと戻った。そこから動画を見たり
中学の復習や高校の予習、{flowerアレジメント}のWebサイトを見たりして、時間を
潰す。海里の専門学校ではすでに入学式が終わり、通常授業が始まっている。今は
きっと、授業を受けているのだろう。夜が来たら月の配信を見て、ご飯を食べて、
もう一回予習・復習をしてから寝る。
でももうすぐ、そんな日常も変わるんだろうなと、自室のベッドに寝転んだ花鈴は
思った。高校に入れば予習・復習はさらにペースをあげるだろうし、三期生としての
配信も忙しくなるだろう。けれどそれは辛いことではない。自分にとっては
夢への大きな一歩だ。
「(そういえば、皆どうしてるんだろう)」
三期生の仲間を脳内に浮かべながら、花鈴はスマホを触る。画面には、Suifishでの
{flowerアレジメント}公式アカウントが表示されていた。三期生が決まったという
知らせだ。それをしばらく見つめると、タイマーをセットし、電源を切る。
「勉強、しなきゃ」
そう言うと花鈴はベッドから起き上がり、すぐ傍にあるアクリルの机へと向かう。
上に参考本を出し、復習を始める。月の配信が始まる時刻五分前を知らせる
タイマーがなるまで、勉強との戦いだ。
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