#20 イベント説明です!

「はい、これ。三期生コラボの配信内容だよ。台本なしで行くから、きちんと目を通しておくように」



そう言いながら金華が六人のPCにメッセージを送る。黒い文字でシンプルに

書かれたメッセージ。その中には、


【三期生コラボ配信内容】

・三期生PVを流す

・自己紹介タイム


だけだった。


「え、これだけ?」

「コラボ配信、意外としょぼいですわね…」

「タシかにこれだけならダイホンはいりませんねぇ」

「はは、大丈夫。それはあくまでの内容だから」


驚く花鈴達に、金華は笑いながらそう言う。


「一日目?」

「あぁ。この配信は一週間続くよ。一日目はまずファン達の様子を見たいからね。そこから一週間をかけて、三期生達はどんな人かを確認していく。それだけさ」

「なるほど、そこからソロ配信が始めるのね!」

「うぅ、はやく配信してみたいです!」

「“虹を見たかったら、雨も我慢しなきゃね”。大丈夫、コラボ配信も楽しいから」


うずうずが止まらない花鈴を、レイアが名言を使ってなだめる。


「二日目、三日目の内容は順を追って送っていくよ。何せ、二期生達がイベントを用意してくれるからね」

「二期生…ってことはレイアさんも?」

「うん」

「えっ?!?!?!?」


右手をひらひらと振りながら言う金華に、疑問を覚えた愛がレイアに問いかける。

それに頷くレイアに甲高い声で驚いた彩が再びガタ、と椅子を倒しながら立ち

上がった。


「先輩方が用意してくれた方が楽しいだろう?一期生は忙しいから無理だったけど……」


はは、と笑う金華。一期生は全員、バーチャル界の顔だ。日々配信を行っているもの

の、それは“配信時間”として予定を組んでいるからだ。その前後のスケジュールは、

きっと忙しいものだろう。


「レイアさんの、レイアさんによる、私のためのイベント…、あぁ、この世の終わりですわ……」

「おっと、レディがカンタンにタオれるのを見過ごすワケにはいかないね」


ガク、と倒れかける彩を、慌てて蒼汰が助け起こす。


「…さて、コラボは明々後日しあさってだ。全員、体調もモデルの動きも完璧にしておくように!じゃあ、解散!!」


パンパンと金華が手をたたき、解散を告げる。それを聞くと「配信ある」と言って

レイアさんはそそくさと帰って行った。彩にサインはもらわなくてよかったのかと

愛が聞けば、花鈴が貰った本と同じように、レイアのサインが入っていたらしい。


「もちろん、サインはいくつあっても損はないですわ。でも、レイアさんの配信の妨げになるであれば引くのもまた、リスナーの礼儀というもの」

「へ~、彩さんはスゴイねーー」

「そうですわ!やっと私の魅力に気付きましたのね!!」


たはー、と笑顔で彩の台詞の感想を蒼汰が述べれば、すぐ舞い上がって甲高い

笑い声をあげる。それを見た愛は「(チョロイな)」と思った。


「じゃあね、花鈴、ユイ。今度は配信で会おう」

「うん、愛ちゃんも!気を付けてね!!」

「はい!配信で会いましょう!!」


会議室前。手を振りながら帰っていく愛に、花鈴とユイも手を振って見送る。愛を

家は事務所の近くらしい。花鈴とユイは降りる駅が違うものの、ほぼ一緒の帰り道

なので一緒に帰ろうとするが、ユイは事務所を出て、少し買い物をしてから帰る

らしいので、花鈴一人での帰宅となった。



「――――っ、――――――!」

「―――、―――――!!」

「ん…?」


会議室を出て、三期生全員に金華が渡した事務所内の地図を手に花鈴は廊下を歩いて

いく。もうすぐ正式に三期生となるのだ。いつまでもスタッフの案内に頼っていては

いけない。そうやって廊下を曲がったり真っ直ぐ行ったりして、右側に曲がろうと

すると、そこから何やら話し声が聞こえた。


「ねぇ、凛ちゃん!三期生、合格したんでしょ?」

「うるさい、あなたと話すことは何もない!!」

「(あれは、雪野さん?隣の人は…誰だろう?)」


壁からこそっと花鈴が見ると、言い合いをする凛と、凛と同い年に見える少女が

いた。亜麻色のツインテールに琥珀色の目。黄色いシャツの上には、デニム素材で

出来た青い上着と短ズボン、茶色いサンダルを履いていた。


「凛ちゃん、なんで?私、ずっと待ってたんだよ。だから凛ちゃんが三期生になったって聞いて、」

「それがあなたに関係あるの?あなたはっ…!もう友達でも何でもないの!!」

「……!」

「(え、え?!)」


その言葉に少女は目を丸くし、傷ついた顔をする。その隙に凛は廊下を去って行って

いこうと歩き出す。すると少女は叫んだ。


「……私、待ってるから!だから、絶対登ってきて!!約束だよ!!!」


しかし凛は振り向くことなく去って行く。それを見届けた少女は、花鈴の方では

ない、別の曲り道へと進んで行った。


「あの二人、どんな関係なんだろう……。」


凛は「もう友達でも何でもない」と言った。…過去形、だった。ということは仲が

良かったのだろうか。それに…「登ってきて」とは、どういう意味だろうか?

彼女は一期生か、二期生?


うやむやな思いを抱えたまま、花鈴は地下鉄へと向かった。

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