概要
架空の民族の架空の風習についてのお話です。異世界ファンタジーなのか現代ファンタジーなのか現代ドラマなのか自分でもよくわかりませんが、風土記系だとは思います。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!その人生は残される。言葉とは違う形で
我々の文明は文字に依存している。それゆえに私たちは文字で考え、文字で物事を記録する。だが文字は一見全能のように見えて、何かを拾い忘れているのではないか。
もしかしたら人生の記録手段として刺繍を使うその民族は私たちが拾い忘れた何かを布に織り込んでいるのかもしれない。
しかし、私たちはそれを文字に変えることでしか理解できない。だが同時にその限界がこの小説に美しい夢想を宿らせる。
文字と刺繍の間で、未知の何かがゆらめいている。それは愛の印か、それとも幼年期の思い出か。そしてそれが尊いものなら、それを知ってしまった私たちはこれから自分の存在をどう記録すればいいのだろうか? また文字で? それ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!セマザサ族にとっての刺繍は、「祈り」と「人生の記録」——。
タイトルにあるように、この作品は「セマザサ族」という民族の風習であり文化である「刺繍」に焦点を当てたお話です。
語り手はセマザサ族ではない外部の人物ですが、彼らの文化である「刺繍」について学んだことを、朴訥としながらも丁寧に語っていきます。
セマザサ族にとっての「刺繍」は、「祈り」と「人生の記録」が一体となったもの。そのため彼らは、生まれると黒く染められた布を与えられ、最初に生まれた日のことを糸で縫って示し、それ以降は出来事があるごとにその布に記していくのです。
さて、その「刺繍」にはどんなことが書いてあるのでしょうか。気になった方は、読んでみてください。
セマザサ族ではない…続きを読む - ★★★ Excellent!!!技巧的でありながら幻想的
架空の民族の架空の風習が話の骨子なのだが、工夫をしていなければ、アイデア倒れに終わっていただろう。
それを防いだのは、セマザサ族を研究している学者の視点から描くことで、話に奥行きを持たせたこと、そして、個人的に高く評価したいのは、固有名詞の選択。
作者が自分で考えたのか、何かを参考・加工したのかはわからないが、固有名詞に引っかかることなく読めるようにしたのは、作品の完成度を高めるうえで、とても大切なことだったと思う。
刺繍の内容が散文詩で説明され、それを学者が読み解く。話はその繰り返しで進むが、詩を自分で解釈してから、学者の「解説」を聞くと、読む楽しさが増すように思う。 - ★★★ Excellent!!!その民族は刺繍に《命》を織りこむ
雪山に暮らすセマザサ族は生を享けたそのときに布を与えられ、みずからの人生を克明に刺繍していく。
……刻むように。……祈るように。
刺繍は多岐に渡る――祝い事の記録から悪い精霊を遠ざけるためのまじない。日常のなかにある喜びから哀しみ。心惹かれた花のこと。その晩、降った雪のこと。何を想い、何を感じ、何を愛したのか。
それはまさしく、命の織物。
民俗学者の記録というかたちを取ったこの小説は、土着民族の風習を綴るだけに留まらず、「命」というものの真髄を記しているように感じます。意識する、意識しないにかかわらず、誰もがいま、このときも刻み続けている命の脈動。
読後、しばらく経ちましたが、セマザサ族は…続きを読む - ★★★ Excellent!!!記録は人の思いも乗せて行く。さあ文化を感じる旅に出よう。
この作品、ざーっと最初に読んだ時、エッセイかと思ったんですよ。つまり実話なのではないかと。世界には自分の知らない民族や文化もたくさんありますから、そういうものの体験記録なのかなって。
そしたらこちら、まさかの創作!
土地の文化は風土に根ざしますから、その地域で代々行われている儀式や風習というものを知る事により、そこに住まう人の世界観等も伺い知る事が出来るので、NHKのスペシャル番組なんかも好んで見ますが、本当にそれを見ているかのよう。淡々としたナレーションで紹介されていく文化がリアリティの塊。
日々の記録を刺繍にしていくのは、この地域では紙が貴重だとか気候的に残しにくいのかも。そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!カクヨムにはたまにとんでもない天才がいるからやめられない
KACのお題「日記」からこんなに素晴らしい物語が生まれるとは……これが創作だなんて信じられません。NHKのドキュメンタリーを一本見終えた気持ちです。
生まれてからの一生を刺繍にして綴っていくセマザサ族。見たもの聞いたもの、そして祈るものを刺繍にして綴っていく、その布はまさに人生を記録した日記そのもの。
途中で刺繍が荒くなった部分で子から親に受け継がれたことがわかるとか、悪い精霊の刺繍は守りの刺繍で覆ってしまうとか、本当にこの民族がどこかにいてそれぞれの物語を紡いでいるかと錯覚してしまうほどです。
セマザサ族の研究者である「私」が、雪の山と呼ばれる人物の思い出と共に語られていく民俗学。
ラ…続きを読む