その民族は刺繍に《命》を織りこむ

雪山に暮らすセマザサ族は生を享けたそのときに布を与えられ、みずからの人生を克明に刺繍していく。
……刻むように。……祈るように。
刺繍は多岐に渡る――祝い事の記録から悪い精霊を遠ざけるためのまじない。日常のなかにある喜びから哀しみ。心惹かれた花のこと。その晩、降った雪のこと。何を想い、何を感じ、何を愛したのか。
それはまさしく、命の織物。

民俗学者の記録というかたちを取ったこの小説は、土着民族の風習を綴るだけに留まらず、「命」というものの真髄を記しているように感じます。意識する、意識しないにかかわらず、誰もがいま、このときも刻み続けている命の脈動。
読後、しばらく経ちましたが、セマザサ族は確かに何処かで「生きているのだ」という実感にまだ浸っています。
そうしてこれを読んでいるわたしも、あなたも、生きている……。

ほんとうに素晴らしい小説です。このような物語を綴られた著者様にただただ、敬意を表したいとおもいます。

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