冷蔵庫の中に眼鏡

作者 くれは

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★★★ Excellent!!!

冷蔵庫の中に眼鏡。
読み始める前は、その奇妙な取り合わせに首を傾げた。

主人公の女性は、自分の心が空っぽだという。
子どものころから、欲しいものほど手に入らなかったと。
つきあっている男性の心でさえも。

そんな彼女がなぜ眼鏡を欲しがったのか。
その理由が淡々とつづられる。

この作品は『第一回銀縁眼鏡文学大賞』という自主企画に応募されたもの。
眼鏡の持ち主である男性はあくまでも眼鏡の添え物でしかなく、本体は眼鏡なのだという作者の強いこだわりを感じる。
眼鏡をかけた男性が好きだという方はもちろん、眼鏡そのものが好きだという方、あるいは眼鏡に興味がないという方にも幅広くお薦めしたい。

作者のくれはさんは、最近私が個人的にとても推している作家さんである。
いくつか拝読した作品はどれも完成度が高く、唸らされる。
とにかく文章がめっちゃうまいし、話の内容もとても興味深いものばかり。

今回ご紹介する『冷蔵庫の中に眼鏡』は、とくに心情の表現が繊細で美しい。
それでいながら気取ったところがなく、主人公に対して強い共感を覚える。

私自身はきわめて単純な感情しか持ち合わせていない人間だが、くれはさんの文章を読んでいると「ひょっとしたら自分の中にもこんな繊細で美しい感情があるのでは?」と期待してドキドキしてしまう。

また、比喩表現の秀逸さにも目を見張る。
冷蔵庫と眼鏡。
それぞれの意味するところを知り、タイトルの意味を理解したとき、「あああ、わかる! めっちゃわかる!」と心の中で号泣した。

読後にはとてつもない悲しみが残る。
私にはどうあがいても彼女の空洞を埋めることはできない。
ただただ、彼女が眼鏡の存在を忘れられるほど冷蔵庫の中にたくさんのものが溢れればいいと願うばかりである。

★★★ Excellent!!!

確かに熱は在るのだろうけれど、束の間に沸いたように見えても、すぐに冷めてゆく。そんな低温域の胡乱な熱交換を描いた素晴らしい文学作品です。

サーモグラスの硬質な縁取りを介して視たかったのは、実体の熱か、心の熱か。
この冷蔵庫の扉を開けて、想いを馳せてみて下さい。

★★★ Excellent!!!

染みました。愛情というかたちないもの、の代わりに、最後に主人公に彼に求めたのは、かたちあるもの。
タイトルの「冷蔵庫」と「眼鏡」が象徴する物語内での比喩も切なくて、胸に迫るものがあります。
小道具が「ストーリーを体感させる小道具」として上手く生かされており、短い戯曲を読むような味わいも感じさせられました。