15 フェスカ侯爵の日常
夜会を終えてからの父と母の行動は早かった。
まずは二人でギュンツベルク子爵家へ訪問し、エスコート令嬢として
話の裏を読むのは貴族の嗜みだ。
正確に意図を理解した上で、娘の自由にさせたいとギュンツベルク子爵は断りを入れてきたそうだ。やはり子爵は侯爵の権力に流される人物ではないようだ。
この答えを聞いた父はいたく感服したそうだ。
しかし子爵の回答とは違い、子爵夫人は母と意気投合するや、「別にいいわよ」と、賛成の返事を返したそうだ。
どうやら子爵家においても家庭内での力関係は、我が家と変わらないようで子爵夫人に説得された子爵が折れる事で、正式にリンデをエスコート令嬢として迎える事が出来るようになった。
そんな子爵夫人から、母を通して伝言があった。
「『リンデには伝えないから、息子さんの力に期待するわ』だそうよ? 頑張りなさい」
つまり、機会は上げるから自分で頑張れと言うことらしい。
どうやら中々に厳しい義母のようだ。自然にそう考えて義母はまだ早いだろうと内心で大層慌てた。
母は、それから~と続け、
「あなたには、改めてダンスのレッスンが必要のようね。女性にリードされるとは恥を知りなさい!」
笑っていない目で睨みつけ、先日の主催者側のダンスの話を持ち出してきた。
あぁやっぱりバレていたらしい。
その日からダンスのレッスンを受ける日課が俺に追加された。
執務室で父の仕事を手伝っている時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
返事をすると、執事のヨアヒムが来客の先触れがあったと報告があった。
「誰からだ?」
「ブレンターノ伯爵令息のモーリッツ様でございます」
あぁあいつか。
俺は許可を出すようにヨアヒムに言いつけて仕事を再開した。
そしてその日の午後。
予定通りの時間にヨアヒムより来客の報告を受け、客室へ向かった。
部屋に入ると出された紅茶を飲みながら、まるで自分の家のように寛いでいるモーリッツの姿があった。
俺を見て「よぉ!」と手を上げてくるのを無視し、
「今日はどうしたんだ?」と、聞いた。
モーリッツはお茶菓子を頬張りながら、
「ん~、ちょっと助言かな?」
と、疑問系で返しやがった。
その後はダンマリ状態だ。
仕方無しに席に座り、使用人が淹れた紅茶を口に含むと、どうやらそのタイミングを狙ったのだろう、モーリッツが突然、
「お前ディートリンデ狙ってんの?」と、聞いてきた。
危うく紅茶を噴きそうになのは何とか堪えたが、咽てゲホゲホと醜態を晒した。
呼吸を落ち着けて、
「突然何を聞いてるんだお前は!?」
奴は悪びれもせず
「確かに夜会でのあいつ凄く綺麗だったよ。それにご丁寧にしっかりと囲ってるみたいだしな、そう言うルートもあるんじゃないかと思ってんだけど?」
実はあの日だけでなくその後には親同士の正式な話もあり、囲ったのは確かな事実だ。
普段は貴族らしからぬ奴だが、侯爵家が彼女を
しかし、こいつでも分かるのに、なぜリンデには分からないのだろうか!?
事実は事実、だから俺は「それがどうした?」と平然と言った。
「いやお前が本気なら、俺はそれに協力しようと思ってるんだ」
突然の申し出に驚き、俺は貴族の癖からその言葉の裏を読もうと考えた。しかし幾ら考えてもこいつにメリットが無い。
結局答えは見つからず、素直に聞くことにした。
「なぜお前がそんな事をしてくれるんだ?」
モーリッツは「今までのお礼かな?」と、少し寂しそうな表情で笑った。
「絶対に協力する」と息巻くモーリッツは、
「いいか? ディートリンデと出掛けたら必ず本屋に行けよ。あとは、そうだなぁ花屋も良いな。だが買うのは花束じゃなくて苗だ、絶対覚えとけよ!」
「花じゃなくて苗なんてどうするんだ?」
普通、女性が綺麗な花束を貰えば嬉しいに違いないが、なぜ苗なのかが分からない。
「あいつは花を育てるのは好きだが、花束は好きじゃないんだよ。だから苗だ!」
「お前、詳しいな……」
ポンポンと出てくる助言に素直に感心すれば、
「まぁな。実は以前に親友から教えて貰ったんだよ」とやっぱり寂しく笑った。
そのモーリッツが言う親友とやらに少し嫉妬が芽生えるが、俺にはそんな趣味は無いと数回唱えて平静を装う事に成功した。
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