24 荒ぶるクラウディア様

 軽食の置いてあるテーブルの近くに、休憩用のソファーが設置されていました。踊った後に立ちっぱなしで居るとか拷問ですからね、これらの設備は必要不可欠でしょう。

 踊り終えた私達も、例に漏れず休憩場所へ移動しました。


 その中の一角、なにやら賑やかなテーブルがあります。

 視線を向ければ、その中心にいらっしゃるのは公爵令嬢のクラウディア様、そしてその取巻きA~Cの伯爵子爵男爵令嬢です。

 ゲームでは壁絵ですから名前は知りません。


 ゲームでのクラウディア様は、絵師に関わらずプレイヤーに一途です。

 その思いがありまして、すべての攻略対象で登場するオールラウンドなお邪魔キャラになってます。


 だた、残念かな。

 見栄えはとても綺麗な方なのですが、ご自分を売り込む事より、周りを邪魔者にし蹴落とすことを優先するキャラ設定のようです。

 だからゲームのエンディングに悪役令嬢ルートは無いのです。

 誰だって自分が可愛いアピールもせず、周りの悪口しか言わない口汚い女性は選びませんからね。



 まぁ何が言いたいかと言いますと。



 要するに、見つかれば絡まれる!




 と言う訳で、会話の邪魔にならないように~(こそこそっと)と、離れた場所のソファーへ向かえば。

 プレイヤー感知センサーでも付いているのか、座るが早いか来るのが早いかのレベルで、クラウディア様がこちらにご挨拶にやってきました。

「御機嫌よう、モーリッツ様」

 と、プレイヤーたるモーリッツ様お一人を名指しでご挨拶されます。


 ちょっとだけ待ちますが、私を含め他の3名は無視というか……

 視線はモーリッツ様に釘付けで、他が見えてません。ここであえて挨拶する地雷を踏むべきかと悩みます。

 無視とか眼中に無いとか、地味っ子な私としては非常に有り難いのです。

 しかし礼節的には問題ですよね。


 う~ん……



 悩んでいるうちに、空気を読まないモーリッツ様が妹令嬢を紹介。

 さらにアウグスト様、そして私を紹介してくれました。

 あぁ有難うプレイヤー!? と、このとき初めてルートにも入って来なかった奴に色んな意味で感謝しました。


 そこで初めて、クラウディア様の視線がこちら側3人へ向きました。


 状況を整理します。

 アウグスト様は、プレイヤーの友人キャラで男性。

 モーリッツ様が攻略中の妹令嬢は、いまだに真実の設定義理の妹が発覚していない状態。つまり対外的に言えば、ただの妹です。


 そして私は?

 攻略キャラ、ですよねー……



 ゲームの設定を知らない人からすれば、これは選択問題ではない。



 矛先が私に向いた途端、クラウディア様の口撃が、私に向かって一斉放射されました。

「あら、根暗で地味な本の虫が、珍しく灯りのある場所出てますわ。どうなさったの貴方?」 そして、「どこかお体の具合でも悪いのではなくて?」

 それとも悪いのは「お顔と頭の方かしら?」だそうです。


 そんな中で私は、懐かしいゲームの台詞を、リアルな表情付きで生で聞けて感動すら覚えました。

 思わず感動でウルっとしますと、

「クラウディア嬢、リンデは僕がエスコートしている令嬢だ。失礼な言いがかりは止めて貰おうか!」

 と、アウグスト様が間に入ってきました。


 ちょっと、なんで愛称で呼び捨てなの!?


 と、驚きの表情を見せましたが、さらに驚く事が!

 アウグスト様は流れるような動作で、私の肩を抱きそのまま向かい合うように抱きしめました。私の視界はクルっと周り、視界一杯の胸!?

「はぇぇ!?」」

 その突然の行為に、私の喉からは変な声が出て、動悸が早鐘のようになり、自分でも顔が真っ赤になっているのが分かります。

 えと、呼び捨てが、じゃなく!?

 何で腕、む、胸の中に?

 あー、もう! ドキドキうるさい! 考えが纏んないでしょー!





※※※※※※※※※※※※※※


 俺がリンデを護る為にそう言えば、クラウディアは理解したのだろう。すぐさま矛先をファニーへ変更した。

 あれだけ手酷くモーリッツに無視されているのだから、いい加減諦めれば良いのに、この令嬢にも困ったものだと思う。


 先ほどとは対象を変え令嬢とは思えない口調で口汚くファニーを罵るクラウディア。

 そもそも好かれ様と思ってやっているこういう態度嫌がらせが嫌われていると言うのに、気づかないものだろうか?



 俺の腕の中には、リンデが先ほどから硬直して固まっている。クラウディアに嫌がらせを受け、泣きそうに瞳を潤ませていたのだ。

 さぞかしあの言葉がショックだったのだろう。


 さてと、俺はリンデを護るのに忙しい。

 だからそっちまで構ってやる暇は無い、後はお前が何とかしろよと、そんな意味を込めてつつモーリッツに視線を向けた。


 そのときのモーリッツはいつもの飄々としたおどけた顔ではなく、何かを決断したような表情を見せていた。


 そして、驚くべき事を言いやがった。


「ファニーの悪口はやめてもらおうか、彼女は俺が生涯を掛けて護ると決めたたった一人の子なんだ!」

 それを聞き、憤怒の表情を見せたクラウディア、戸惑いを見せるファニー。

 俺はきっと、妹相手に何を言っているんだ? と、疑問を浮かべているはずなのだが、心のどこかで、『そう言えば妹狙いだったよな』と納得してしまった。



 早くも我に返ったクラウディアは怒りのままに「妹相手に何を言っているの!」と、モーリッツを問い詰めている。


 モーリッツはそれを無視して妹を抱きしめると、

「俺たち血が繋がってないから!」

 と、爆弾発言しやがった。


 それを聞いて泣き出したクラウディアが、捨て台詞も無しに走り去れば、取巻き令嬢らもそれを追いかけて走り去った。

 取り残された俺たちはと言えば、お互いがエスコートしてきた令嬢を大切に抱きしめている状態だった。


 冷静になって気が付くのは周りの視線だ。

 あれだけ激しい言い合いしていたのだ、注目も浴びるだろう。さらに言えば主催者の娘が泣きながら走り去ったのだ、今後暫くはこの噂で持ちきりだろう。



 今後の事を思えば俺にとっては本意だ。しかしリンデはきっと不本意だろうなと、静かにため息を吐いた。

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