13 ギュンツベルクの新しい日常
夜会へ向かった娘を送り出した、ギュンツベルク子爵夫人。
「イレーネを呼んで頂戴」
しばし自室で待てば、子爵家の侍女長イレーネがやってきた。
「何か御用でしょうか奥様」
「リンデのことだけど、気づいているでしょう?」
子爵夫人とイレーネの付き合いは幼少の頃からで、もはや数十年に及んでいた。二人にはそれだけの言葉でも十分伝わる関係でもある。
「しかし夜会が終わりましたら、過度なスケジュールは受けて頂けないかと思います」
そう、ダンスレッスンと言う名の運動。それに伴う空腹に、疲労による十分な睡眠。これらが今のリンデの美しさを創り出したのを、リンデ以外は皆理解しているのだ。
そもそもが、過度な読書からくる睡眠不足による目の周りのクマ。その間の間食やら規則正しくない生活から食欲にも波があり不健康極まりない。
そんな生活を続けた結果、容姿は平凡で華やかさが無くなってしまったのだ。
「そうね。ダンスのレッスンは夕食後に一時間だけやらせましょう」
イレーネはそれを聞き、子爵夫人の思惑を察した。
「ではレッスン後には入浴と、マッサージで十分な睡眠をして頂きます」
子爵夫人は自分の思惑が正しく伝わったと分かり、にこやかに微笑んだ。
夜会を終えてから、ダンスレッスンは無くなり……、あれ?
「ねぇ何で食後にダンスレッスンをするのよ?」
そう問い掛けてみれば、イレーネが事務的に淡々と答えます。
「夜会で軽食された後、ダンスのお誘いがあるかも知れませんので、慣れておくのが宜しいかと存じます」
「いやいや、今後は夜会に出る予定は無いわよ?」
「残念ながらお嬢様。前回の侯爵家の夜会以降、方々から招待状が届いております」
なんてこった……
「そ、それは参加しなければならないのかしら?」
「奥様のご指示ですので」
そう言われてしまえば私には選択肢がない。
でもね、「一時間だけよね!?」と、練習時間の制限だけは勝ち取れました!
やったね!
そんな生活が始まり数日後の事。
本日の天気は気持ちのよい快晴です。
午前中は庭弄り~、お昼からは読書~
そんな事を歌いながら、起床して身嗜みを整えていると、
「お嬢様、お客様がいらっしゃいました」と、執事のセリムから報告がありました。
「えぇ!? こんな早くに?」
「はい、エントランスでお待ちです」
「予定には……」
「もちろんございません」
身嗜みを終え、エントランスに向かうとそこに居たのはモーリッツ様でした。
私の攻略ルートに入らなかったプレイヤーが、いまさらフラグ回収不能な
彼は私の姿を見ると、にこやかに「おはよう、ディートリンデ」と挨拶して来ました。
だから呼び捨てって……
あまりのフランクっぷりに、執事のセリムが驚きの表情を見せてます。
「モーリッツ様、特に親しい間柄でもないのに呼び捨ては止めて下さい」
これには「あぁごめんごめん」とまるで反省した様子の無い生返事が返されます。
ちっ、こいつは何を言っても聞かない駄犬タイプか。
「それで、こんな朝早くに一体、何の御用でしょうか?」
「デートしない?」
「ハァッ!?」
っと、声が裏返ってしまいました。
気を取り直して、こほんと。
「それは何のご冗談でしょうか?」
モーリッツ様はにこやかに、「本気だよ」と言われますが、周りの使用人たちからの視線がそろそろ痛いので止めて下さい。
「私がモーリッツ様とデートする理由がありません。お断りさせて頂きます」
そうです、私ルートはもう通行禁止なのです!
毅然とお断りさせて頂きました。
それを聞き、
「ああ、ごめんね。僕とじゃなくてダブルデートなんだけど、どうかな?」
ダブルデート……だと?
「そ、れは、誰と誰が?」
動揺はそのまま言葉に。
「僕と妹のファニー、それからディートリンデはアウグストとだよ」
「ハァッ!?」
早くも本日二度目の裏返り!
「え、えーと」
追いつけ思考!
ちがぅ、落ち着け思考!!
いやいや落ち着け私!
「つまり、私とアウグスト様がデートですか?」
「うん、それと僕たちと一緒にダブルデートね」
「私とアウグスト様が……」
あれぇどうして、フラグはいつ立ったの!?
「だからダブルデートだけど? 聞いてる?」
「え、えーと、それはいつ?」
「うん、今からー」
「ハァッ!?」
私は押しに弱いのか、朝食を食べる事も無く執事のセリムに促されて伯爵家の馬車に乗せられたのです。
馬車の中では妹令嬢のファニー様が、申し訳なさそうな表情で座ってらっしゃいました。
■幕間
リンデが出かけてからの食卓ではセリムが外出の報告を行っていた。
「それでリンデは出掛けたのかね?」
「はい、グループ交際とは言え、フェスカ侯爵のアウグスト様がご参加されますので、勝手ながらご一緒するように送り出しました」
「良くやったわセリム。あの子は疎いから多少強引に行くべきなのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます