終章
32 奥様!?
私とアウグスト様の結婚式は王宮内にある神殿で行われる事になりました。担当される神官様もとても偉い方だそうです。
王宮内の神殿と言えば、中々許可が下りない事で有名なのですが、流石は侯爵家ですね。
私はこの日の為にエルゼ様がデザインされた、後ろがものっそ長くて、シルクをふんだんに使った純白のウエディングドレスを着てアウグスト様の隣に立ちました。
イケメンで笑顔の糖度十二分なアウグスト様の隣に、ドレスや貴金属以外はパッとしない私が並ぶと大層貧相に見えているでしょうね。
これほどドレスに着せられている令嬢も居まいよ。
すみません、皆様方……
神官の方がなにやら眠くなる呪文のような事を言い終わると、二人は誓いの言葉を宣誓します。
その後は、えっと、まぁアレですよ。
アウグスト様からして頂きました。
あとは結婚証明書に署名をすれば、晴れて法的に夫婦となるわけです。まずは男性から記入し、女性の私へと続きます。
既に署名の入った紙を見て、書き損じたらどうしようと、内心の緊張が現れてサインする手が震えてしまいます。
これを失敗したらアウグスト様も書き直しよね……
それに気づくとさらに手が震えてきます。
「大丈夫だよ」
手が震え一向に筆が進まない私を見た、アウグスト様が小さな声で励ましていただきまして何とか書き終えました。
ふぅ、ひと仕事しましたよ!
場所はそのまま披露宴会場へ移ります。事前に王宮内にあるホールをお借りしてありまして、皆さん徒歩で移動です。
その間に新婦は急いでドレスの着替えです。
あの後ろの長さでは歩くに歩けませんからね。ちょっと短いけどやっぱり長いよって感じの、純白なドレスに着替えて会場へ向かいます。なお本日のドレスは総てエルゼ様デザインです。
長くて歩きにくいのに、早くと急かされる私。後ろの人も頑張ってー!
やっと辿り着いた会場のドアの前には、既にアウグスト様が待っていらっしゃいました。
「お、お待たせっ、しまし、たっ!」
ぜぇぜぇと息が荒いのはご容赦頂きたい……
「えっと、大丈夫?」
すぅハァと息を整えて、「大丈夫です」と笑顔で答えました。
披露宴は、端的に言えばただの飲み会でした。
今まで一口も飲んだ事も無いお酒を注がれるのなんのと。適度に断る私とは違い、アウグスト様は注がれるままに飲み進めています。
大丈夫かなぁ……
視線を向けると、それに気づいてニコリと笑います。
う~ん、大丈夫そう?
……。
…………。
あああぁ、大丈夫じゃなかったです。
新郎が潰れてしまいました、いや潰されてしまいました?
「アウグストぉ~情けないぞぉ」
先ほどから死に体のアウグスト様をバシバシと叩いているのは、同様にべろんべろんのモーリッツ様です。
そのお隣には、「きゃはははっ」と、とても楽しそうに笑う女性がいらっしゃいます。こちらはアウグスト様のお姉様のクリスタ様です。ちなみにクリスタ様は酔いつぶれた弟の口に時折酒瓶を突っ込んで容赦ない追い撃ちをされています。
お義姉様、や~め~てー!
冷静に周りを見てみれば、私達の居る主賓席周りは誰もがかなり酔っているご様子です。
これって一体誰が収拾するんですかね?
少々酔いが有りますが、私は自力で馬車に乗りフェスカ侯爵邸へ戻る事が出来ました。
馬車に乗っているのはお義父様とお義母様、そして本日から正式に私の旦那様になったアウグスト様です。
ちなみにアウグスト様は、私の膝の上で意識不明でございます。要するに収拾とか全然無くて、ただ帰りの馬車に突っ込まれただけとも言いますね。
馬車が屋敷に着くやいなや、お義父様とお義母様は特に言葉も無くササッと先に降りられて屋敷に入っていきます。
きっと人を呼んでくれるはずです。
……。
…………。
呼んでくれますよね?
十分な時間を待った気がしまして……、やっと屋敷から屈強な使用人二人が来ると、彼らは左右からアウグスト様に肩を貸して屋敷に入っていきました。
再び馬車にポツンと残された私。
さらに暫く、誰も何も言いに来てくれない。
婚約者時代はもう少し歓迎されていた気がしますが、あれは気のせいだったのかなぁ?
もう少しだけ待ちますが、やっぱり誰も来ないご様子です。
「もう降りて良いのでしょうか?」
御者の方にそう問い掛ければ「もちろんです」と、お返事を頂きました。
あれ、実は私待ちだったのですか?
もうなんだか良く分からない状況になってますが、私は一人寂しく馬車を降りてそっと玄関のドアを潜りますと……
エントランスには使用人一同が綺麗に整列してズラズラっと立っていました。
その中には左右から肩を貸りて一緒に立っているぐてんぐてんの旦那様もいらっしゃいます。
「「「お帰りなさいませ、奥様!」」」
一同が声を揃えて言い、そして盛大な拍手で迎えられました。
「あ、ありがとうございます。ただいま、です」
雰囲気に気圧されたのはご容赦頂きたい……
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