34 翌の初昼

 朝食の席には、既にお義父様にお義母様、そして真っ青なアウグスト様が座っていらっしゃいました。

 私が席に座れば、アウグスト様は真っ青ながらも「おはよう」と力ない笑顔を見せて来ました。そして「昨日はすみませんでした」と、謝罪されます。

 たぶん馬車で倒れて膝枕した事でしょうか?


 いえいえ大丈夫ですよ~と笑顔で返しておきます。

 それを聞いたアウグスト様の顔色は青から白へとさらに悪くなり、おまけに随分と気落ちされたようです。


 おや? 何かへこんだご様子……う~ん違ったかしら?



 食事の席では、主にお義母様がお話になり、それに私が相槌を打つ感じで会話が進みます。

 いつぞやの時と同様に進むのは話題ばかりで、私のお皿は進みませんでした。

 本日はアウグスト様のお皿も進んでませんのでご一緒ですね!


 これもいつか慣れるかしら?




 食事を終えて、執務室に向かわれる男性陣を見送り、私は庭へ向かう為の日よけの帽子と着替えを準備して貰います。


「あら、リンデちゃんお出かけ?」

 そんな私に、一緒に飲む様にと、お茶セットを準備させていたお義母様が問い掛けてきました。


「着替えてからお庭のお手入れをしようと思っています」

 以前に誕生日プレゼントで頂いた私専用の花壇に向かうのだと言い、また朝に作業するのは日焼け防止ですと、伝えておきます。

 お義母様は「なるほど」と納得され、「じゃあ今朝は東屋の方でお茶にしましょう」と新たな提案をされました。


 見学すると言う意味なのかな?


 それからお義母様は「その服は汚してもいいわよ」と、とても高そうな服を別になんでもないように仰いました。そう言われてしまうと着替える方が角が立つというもので、私はしぶしぶ着替えずに花壇へ向かったのです。


 なにやら良く分からないまま了承と伝えた事は、私の反省すべき点でした。


 土をいじる。

 話しかけられるたびに汚れた手を洗ってお茶。

 そして最初に戻る。


 とても効率の悪い作業でございました。



 お部屋に入る前に、汚れたので着替えましょうと言われて着替えました。実家ならそのままゴロゴロするのですが、侯爵家で許して貰えませんでした。

 お掃除大変ですからね……


 その後は、ドロテーにお屋敷内を案内して貰いました。

 婚約時代からちょくちょく来ていたので、オープンエリア部分は割愛。屋敷の住人が暮らす奥のエリアを案内して貰います。

 お客様が入ってこないエリアとは言えど、流石は侯爵家、手抜きは無く掃除も万全、廊下やお部屋のそこかしこには花瓶やら絵画が置いてありまして、中々におしゃれな感じでした。

 そしてリビングが凄い!

 なんと最初に案内された場所は『私達若夫婦用』とか言う名前が付いているのです。気になって問うてみれば、他に『家族用』と、『お義父様達用』、そして『使用人用』があったのでした。

 なお、使用人用はなるべく入らないようにして頂けると~と少しばかり言い難そうに、えぇ分かってますよ。


 その後は普段より中途半端な時間が余りまして、私は昼食までの半端な空き時間を使い、ドロテーに手伝って貰いながら自室で実家から持ち込んだ荷物の整理を行っていました。

 そしてとても重大な問題に気がついたのです!!



 その問題を解決すべく、私は昼食の席でお義父様にお願いしました。

「お義父様、私に仕事を頂けませんか?」

 それを聞くと、心なしか朝より顔色が良くなったアウグスト様を含め、三人とも食事の手が止まります。

 全員が顔を見合わせた後、

「どうして仕事が欲しいのだね?」と、逆に問われました。


 そこで私は先ほど荷物の整理をした事を話し、実家から持ってきた本が本棚に納まらなかった事を伝えます。

 なので、まずは本棚が欲しい。また後で本を買い足したい。だからお金が欲しいのだと言いました。

 お義父様の答えは簡潔で、「その程度、好きなだけ買えば良いだろう」でした。


 しかしお義母様は違う意見で、本棚は増設させておきますと、前置き、

「再現無く本を買うわけには行きません。お小遣いを上げるからその中で買いなさい」

 と、仰いました。






 しかし結婚しているのにお小遣いと言うのも変な話なので、私は丁重に断り仕事が頂ければ自分でお金を稼ぎますと言いました。

 するとアウグスト様が、

「では旦那の僕が稼いだ分からリンデにお小遣いを出そう」

 アウグスト様の提案は夫が妻にお小遣いを出すというもの。

 う~ん、専業主婦な日本の家庭ならいざ知らず、これはありか? と、なんだかグレーゾーンな気分になります。

 そんな気分では面白い本も面白くなさそう……


「お断りします」

 どこか返事が間違ったのだろうか、アウグスト様が再びへこまれました。


 するとすぐにお義母様から代案がありました。

「だったら、夜会とお茶会に参加するたびにお駄賃を上げるのはどうかしら?」


 その内容は侯爵家の嫁ならば普通のお勤めのお話です。

 そのような当然の事をしてお駄賃を貰うわけには行きません。

「それは駄目ですわ。だってそんな事は侯爵家の嫁として当然の事です」

 私が毅然とそう断れば、歓喜したお義母様が走りよって来て私を胸に抱きしめました。


 く、苦しい……です……



 色々と話し合った結果、私が育てた苗から花を切り屋敷に飾る。その花代をお小遣いとしてよいと言う事でした。

 ちなみに苗代は~と話が転がる前に、お義父様が話を切られましてそれは屋敷で準備して頂ける事になりました。

 ありがとうございます。





■幕間



 リンデちゃんの話を聞けば、別段何のこともなく本が欲しいと言う事だった。

 侯爵家の財力であれば例え本屋が開けるほど購入されても、大した話でも無いのだが、結婚前にギュンツベルク子爵夫人から言われてた話を思い出して、私は夫が出した許可をすぐさま取り消したのだ。



「あの子ね、本を読み始めると夢中になって徹夜してでも本を読むのよ」

 だから目の下に慢性的なクマが出来て、いつも不健康な表情をしていたと言う。


「そちらに嫁いでいってからも適度な運動ダンスレッスンと、十分な睡眠本の管理は必須よ」


 可愛い嫁のためにも、その言い付けだけは守らなければなるまい。

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