04 初見×2の2
学園の食堂のいつもの席に座っていると、今日も空席に影が差した。
俺はまたディートリンデか? と、視線を上げると、そこにはモーリッツが笑みを浮かべて座っていた。
あの不思議な令嬢ディートリンデではないことに少し落胆したが、……この光景。
あぁ何だろうこの既視感は。
俺はこの光景を見たことがある気がする。
それこそ何度も何度も……
いやモーリッツとは今日が初対面だ。そんな訳がない。だがこの既視感は一体?
「よぉアウグスト、久しぶりだな!」
初対面と言う事を差っ引いても、奴はとても貴族とは思えない口調で話してきた。
「俺たちは初対面のはずだが、何のようだ?」
俺の内心は不思議と嬉しく思う感覚を覚えたが、相手の無礼な態度には少なからず苛立っていた。
奴は「まぁまぁ」と言いつつ、「お前んちって夜会やらないのか?」と聞いてきた。
「夜会? あぁ確か毎年この時期にやっているが、今年はまだやってないな」
昨年、姉が結婚して家を出たから今年は夜会を開く意味がないのだ。
なぜなら俺には婚約者、つまりエスコートする令嬢が居ないからだ。幸いと言うか残念と言うか、デビューだけは去年、姉をエスコートして済ませてはいる。
ただ今年は、主催者の嫡男がエスコート無しでは嫁探しと言う名目が付くので風聞が悪くて夜会は開けまい。
そんな事情は俺の心の中の話で……
まだやってないと聞いた、モーリッツは指をパチンと鳴らして「やりぃ!」と言う。
「突然どうした、変な奴だな?」
「だからさぁ夜会、やろうぜ! 俺の妹が今年デビューの年なんだけどまだでさぁ。親友のお前の家でデビューさせてやりたいんだよ! だから頼むわ」
そう言って両手を合わせて懇願してくる。
いつから親友に格上げされたのか? と思うのだが何故か不思議と嫌ではない。
おぃおぃ真面で俺にはそう言う趣味があったのか!?
そう考えると一気に背筋が寒くなった気がした。
「夜会か、開いても俺が出席できないからな。だから
そう言って、俺は先ほど考えていた自分の事情を話した。
「ふ~ん。じゃあエスコートできる令嬢が居ればいいんだな?」
「そんな簡単な事じゃない。主催者側でエスコートするという事は、そのまま婚約発表になってしまうだろう? だから駄目なんだよ」
モーリッツは、う~んと考える素振りを見せていた。
これで諦めてくれるだろう。
それがどうしてこうなった?
俺は今、ギュンツベルク子爵家を訪ねていた。
あの後、
「よし、じゃあ勝負しようぜー」
軽い口調でそう言ったのはモーリッツだ。
「はぁ? お前は何を言っているんだ」
「だから勝負だよ、勝負。俺が勝ったらお前んちで夜会を開く、お前が勝ったら開かない。これでどーよ?」
「その勝負のどこに俺が得する要素があるんだ?」
「んー負けたときに令嬢を誘う言い訳が出来る事かな?」
この時の俺は呆れ顔だったと思う。
「そうそう、勝負内容は決めていいよ?」
上から目線でそう言うと奴は「ハンデだよ」と言ってニヤリと笑いやがった。
馬鹿にしやがって、丁度、夜会シーズン前に学力試験があったことだし、だったら学力勝負にしてやるさ。
学年でも上位の俺には簡単には勝てまい!
そして……負けた。
全教科満点の学年一位に勝てるわけが無い。
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