攻略対象ですがルートに入ってきませんでした

夏菜しの

本編

01 私、攻略対象です?

 ここは貴族の子だけが通う名門学園の食堂。

 先ほど私は婚約を破棄されました。

 婚約者曰く「お前みたいな暗い地味な女を生涯の伴侶とするのは真っ平だ」だそうです。もちろん言い回しはもう少し丁寧でしたけどね。

 まぁ確かに私は、顔も十人並みで平凡ですし、趣味も読書に土いじりと、確かに華やかさとは皆無です。



 そんな元許婚な彼の隣には、とても華やかなで笑顔の令嬢が付いています。

 凄く勝ち誇った嫌みったらしい笑顔ですがね!



 言い渡された瞬間、私は悔しくて目の前が真っ暗になり立ちくらみを起こしました。

 そのときに思い出したのです。

 ここはゲームの世界だと言う事を。



 思い出した記憶によれば、私はゲームの攻略対象の一人である子爵令嬢です。

 食堂で婚約破棄され、気落ちしたところに颯爽とプレイヤーが介入して、私を慰めてルートに入りますが……


 と、食堂をザザッ~と見渡します。


 あれ、プレイヤー居なくね?



 キョロキョロと不審な行動をしていたのでしょう。

 元許婚が「お、おい、どうした?」と、気遣ってくれました。


「いえ、別に……」

 しきりに元許婚が不安げな表情を見せています。

 ついでに隣の令嬢の笑顔も引きつってますね。



 そんなモノはどうでも良く。

 食堂のどこを見てもプレイヤーは居ません……



 確か……と、私は記憶を探ってみました。


 私には許婚が存在しています(既に元許婚ですが)

 別の令嬢が良いと言われまして婚約破棄されるこの場所、つまりプレイヤーはこの食堂イベントを見て、直接介入してくるパターンが一つ。もちろんこれを見るにはこの時間に食堂に移動していないといけません。

 ここで直接介入する場合は、私の好感度初期値が高くなり、攻略が一層容易になります。さらにこのイベントってば、私ルートのTRUE END用フラグの一つにもなっています。


 さて、今はお昼時。

 この時間は確か、食堂で食べるか、中庭に行くか、テラスに向かうかの三択だったはず。

 居ないところを見ると、三択を外したのでしょうね。





 さて次の日。

 つまり食堂イベント発生からの翌日です。


 この日は生徒の噂で、食堂イベントの話が広がります。

 誰に話しかけようが、「おい知ってるか?」と前置きし、昨日の食堂での話をだれかれ構わず話しまくります。


 親同士が決めた婚約を破棄するのはそれほど珍しくもないですし、ついでに言えば子爵令嬢ごときの話をそこまで広めなくても良いと思うのです……

 これこそゲーム効果の賜物でしょうか?


 かく言うプレイヤーは、クラスメイトと会話すればすぐにその噂を聞きますし、そこを端折ったとしても友人と言う名のお助けキャラからやっぱり噂を聞きます。

 そして気落ちした私を体よく慰める事で、ルートに入りストーリーが進むと言う訳ですね。


 こんな程度でルートに入れるとは。

 なんと言いますか、ものっそ安い女ですね、私……



 さて、私シナリオの場合、まずルートに入る入らないに関わらず、婚約破棄が発生します。

 その後はプレイヤーが介入するかどうかの選択があるわけです。


 と言う訳で昨日は見事にイベント通りに婚約破棄されました。

 ここからの私は待ちの姿勢になります。

 ちなみに既にタイムスケジュールが始まってまして、二日目までにフラグを回収しないと私ルートは潰れて消えて無くなります。

 つまり今日が山場なわけですね。





 はい、本日は三日目。

 ルート回収なしで終了です。


 えーと、攻略対象な私ですが、ルートが消滅したキャラクターは、ゲームの中で一体どういう扱いになるのでしょうか?

 答えは「記憶にございません」です。

 だってその後のエピローグにも出てこないし、他キャラのイベント絵の背景にさえも居ないよ!?



 そう言えば今朝になって思い出した記憶によれば……

 ファン投票の結果で、私はドベ2でした。

 ちなみに私の下には生粋の悪役令嬢しか居ません。


 彼女が1位の理由はそれはもう、流石は悪役令嬢と言わんばかりの、罵詈雑言の嵐。そりゃもう清々しいばかりの、自分の役目を終えたという、ある意味、名誉な順位でしょう。


 それに対して私はと言えば、「印象に残っていない」「ルートの確定要素が早く関わりたくない」「ルート確定後のシナリオが単調で作業ゲー」と、まぁこんな感じ。


 イベント発生が早いのでステータスを上げる必要も無く、即ルート確定の癖に内容が地味って事ですね。

 いや、マジ、私ってば安すぎでしょう!?



 こればかりは私の責ではないですけど……

 シナリオライター出て来い!



 さらにこのゲーム。

 ヒロインを色々な絵師が絵を描くと言う事で、キャラクターに飽きが来ないよう、変化を持たせていたゲームだったのですが……

 ちなみにこの絵師を分けた事が、背景に他ヒロインキャラが存在できなくなる問題が発生したわけです。

 ほら、色調が合わなくて浮くじゃない? まぁそう言うことですね。

 なお私には「絵が淡白」「貴族らしくない」と言う評価が上がってました。


 これも私の責じゃないですね……

 絵師ぃぃ!



 早々に退場してしまった私は、このままプレイヤーが、誰狙いなのかを見てても良いんですけどね~

 それはちょっと非生産的かと思うわけですよ。



 そして新たに思い出した追加情報。

 そう言えば誰ともくっ付けなかったプレイヤーが、エンディングを迎えるクリスマスにお助けキャラだけと過ごす、いわゆるBAD ENDルートで各ヒロインのその後のエピソードが語られていました。


 確か私は……

 あれ、なんだっけ?


 思い出せません、だって影薄かったしね……



 だがしかし!

 どのヒロインも皆、プレイヤーが落としとけば良かった~と、後悔するような話が盛り沢山だったような気がする!


 うん、それだ!

 私は明日から、プレイヤーの攻略を妨害をする悪役令嬢を目指そう!

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