06 非日常な
我がギュンツベルク子爵家では、非日常な生活が営まれている。
長女である私、ディートリンデがデビューの年以来の夜会参加と言う事態。
これは学生と言う事を差っ引いても、かなりの引き篭もり体質です。
しかし先日までは婚約者が居ましたから、それでも良かったのですよ?
そしてもう一つ、主催のフェスカ侯爵家である、長男アウグスト様からのエスコートのお誘いです。
もはや屋敷では「婚約破棄された伯爵(挙句に次男坊)とか何それ美味いの?」って感じで絶賛スルー、各所でお祭り騒ぎな状態です。
まずお母様は、無謀にもいつも超順番待ちで行列になる、有名デザイナーのエルゼ様にドレスの新調を依頼しました。
当たり前ですがオーダーメイドです。
オーダーメイドのドレスなんて子爵令嬢では滅多にお目にかかれません。
まぁ超が付く順番待ちですから、今から頼んだところで来月の夜会になんて間に合わないのけど……
やはりここもゲーム補正万歳なのか、侯爵家から夜会用のドレスをプレゼントされると言う事で、侯爵家パワーが入り順番が繰り上がりまして間に合う事になりました。
今ここ。
と、言う訳で、
私は先ほどから、ちょっとお年を召した助手さんの前で、コルセット姿のままくるくる回る人になってます。
腕を挙げて~、はいはい。
はい今度は腕曲げて~と。
要するにドレス用に全身採寸中って奴ですね。
そんな私の隣では、デザイナーのエルゼ様がドレスのデザイン用紙の前で、頭を文字通り捻ってます。
「お嬢様は、スリムですらりとしていらっしゃるから」
このおばさん、先ほどから何度同じ台詞を言うのだろう。
もう素直に出るところが出てないって言って良いのですよ?
えぇ私の体型はスリムです。擬音をあてると「ストン」でしょうかね。
胸も無いからくびれも必要ないって奴ね。
顔は十人並みで地味だし、スタイルも際立つところは無いんです。分かってます。
だから何着てもドレス負けするんですよー!
特に最近流行のレースやらフリルの多めなヒラヒラドレスを着るともうね。
薄っぺらな子がお姫様なドレス着ちゃダメだよねーっていう、模範ですがな。
無駄に長かった採寸が終わり、暫く。
きっとデザインが決まらないから、採寸時間を引き延ばしに引き伸ばしたんだと思うんです。何とか苦肉の策として、エルゼ様が提案したドレスは、シンプルイズベストなドレスでした。
流行りのスカート部にあるフリフリはほぼカット。
これによりお人形さんやらお姫様なイメージは一切無くなりました。
唯一のポイントは、後ろの腰部分にかなり大きめなリボンが付いてること。
内容もさることながら、色が輪を掛けて地味です。
ドレス全体は私の髪の色の鈍色が際立つように、白系統です。ウェディングドレスと間違わないように多少のアクセントはあるようですが……
そして大きなリボンは瞳のアイスブルーに合わせて薄い水色になっています。
白地に水色のアクセントのみ、これなら流石の地味っ子な私でもドレス負けしなさそうですが……
主催者のご子息がエスコートする令嬢がこんな地味なドレスで良いのか? とはたはた疑問です。
何とかドレスも決まりまして、夜会の準備は整っていきます。
その頃、我が子爵家のお父様はと言うと、
「リンデがお嫁に行っても、弟のディートリヒがいるから安心しなさい」
と、斜め上な話をしてました。
ディートリヒはまだデビュー前の未成年じゃないですか……
大体、アウグスト様は、ゲーム補正で特定の令嬢が誰も居ないから、唯一接点があった私を誘っただけですのに。
盛大な勘違いを続けるお父様をどうするか、地味に頭の痛い問題です。
ある昼下がり。
外は快晴で、心地よい風が吹く気持ちが良い天気です。
日が天辺に昇りきる午前中は、購入した苗を花壇に植えて土いじりを楽しんでいました。夜会に出るからには、日差しで日焼けしないように~と厳しく言われています。
小麦色に焼けた令嬢とか冗談にもなりませんよ! だそうです。
流石の私も重々承知しています。
と言うことで、昼下がりは部屋で読書をする時間です。
が……
聞こえてくるのは、『パンパン』という手拍子と、時折聞こえる「ハイッハイ!」と言う威勢の良い掛け声。
なぜかダンスの練習です。
社交界にとんと参加していなかった私のダンスのレベルは、パッと見なら踊れてる程度でした。
「もしかして踊れないって事は無いわよね?」と、お母様に聞かれれば、
「遠めに見れば大丈夫よ?」と、私の答え。
「じゃあ見てみましょう」と、侍女長のイレーネ。
私のダンスを見たあとのお母様とイレーネの表情は、筆舌し難い……
オブラートマシマシして、「ホスト側の侯爵家に恥を欠かせないように」だそうです。
これオブラートを取ったらどうなるんでしょうか?
そう言う訳で先ほどから、ダンスのレッスンです。
お相手は執事のセリム。
ちなみに久しぶりに娘と踊れると、嬉々としてレッスンに参加したお父様は、わずか二回で「仕事があるから」とそそくさと執務室へ逃げていきました。
腹いせに足を踏んだのが良くなかったのだろうか?
それにしてもイレーネは厳しい。
「はい、笑顔!」
にこり。
「背筋真っ直ぐ、目線下げない。また笑顔!」
申し訳なさそうなセリムにも、にこり。
何度と無くダメ出しをされたあと、くたくたになった私に
「お嬢様にはもう少し訓練が必要ですね」
と、目が笑っていない笑顔が……
以来、ダンスレッスンの時間がスケジューリングされました。
非日常の世界へようこそ!!
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