第15話

「なんだ、そんなことか。それくらいなら問題ねぇ」


男が笑いながらそういうと缶ビールをグイっと呷った。


段ボールハウスに入るなり缶ビールを開けて飲み始めた男にこのキャンプ地の一角で寝泊りしたいこと、自分の探索は一つ下の4階層でやること、もちろん当番制で見張り等があればそれにも参加すること、場所代として4階層のドロップ品の一部を渡す気があることを伝えるとあっけなく許可がおりた。


「他の方に確認しないでそんなあっさり許可していいんですか?」

「俺は一応ここのまとめ役みたいなことをやってるからな。俺が良いといえば問題ない。さすがに3階層で活動するってんなら一人当たりの稼ぎが減るから別だがな」


そういいながら焼き鳥の缶詰を開け、2本目のビールを開けた。


「まぁ、そもそもダンジョンは俺たちのもんじゃねぇから力尽くで排除なんかできないんだがな。できるのはせいぜい俺たちがキャンプ地にしてるこの一角を使わせないことぐらいだ」

「あっそうなんですね。でも無理やりこの階層で狩りをしてここの人達と関係を悪くしてまで3階層にこだわるメリットはないですし。折り合いを付けてやっていけるならその方がいいですから」

「若いのにしっかりしてんなぁ。前にジジィが来たことがあったがなんかいきなりやってきて年長だからまとめ役になってやるだの、成果の半分は貰うだの好き勝手言ってたから追い返したことがあんだよ。あんな無駄にだけとった老害とはえらい違いだ」

「いやぁ、さすがにそれはその人がおかしいだけですよ」

「そのおかしいのがたくさんいるんだよ。ここHランクダンジョンで狩りをするような奴は俺も含めて免許が取れない訳ありばっかりだからな。まぁ、今ここを使ってる奴らは比較的まともな奴だから安心しな」

「はぁ……」


あまり安心できなさそうな言葉にそう返事するしかできなかった。


「それで……あ~そういやぁ、名前を聞いてなかったな」

「あっ、すいません。つかさです。指宿いぶすき つかさ

「俺は八島やじま 徹也てつやだ。ここの連中にはテツって呼ばれてるからそう呼べばいい」

「はい、テツさん」

「それで司は今日はこれからどうするんだ?このまま4階層に行って来るのか?」

「いえ、今日は戻りながら2階層で探索するつもりです。その成果を換金してここで寝泊りする数日分の食料をまず用意しようかと思ってます」

「そうか?う~ん……」


テツさんはそういうとわずかに眉を寄せて考え始めた。


「えっと、何か問題でもありますか?」

「いや、別に問題って訳じゃないんだが……。う〜ん、司は今晩と明日の朝の食料があれば泊まっていくのは問題ないか?」

「え?えぇ、問題ないですよ」

「そうか。ならこれから4階層に降りてしばらく探索してこい。そんで、夜は俺と一緒になるが泊まっていけ。大した物はないが夜と明日の朝の食事は用意してやる」

「そんな悪いですよ。また明日きますから」

「いや、泊まってもらった方が俺が楽なんだ。明日はダンジョンを出て、換金と買い出しをしてくる日だ。夕方には帰ってくるがお前が来たときに俺がいないかもしれない。今日泊まって行けばここの奴らにお前を紹介してやるし、夜のうちにここのルールを教えてやれる。明日、地上に上がって一緒に買い物に行けば食料の他に必要な物もアドバイスしてやれる」

「なるほど……」


かなりしっかり俺の事を考えてくれていて驚いた。


「それにこれを買ってくる金を自分の食料を買うのに使ってれば本当なら今日からここを拠点にできていただろ?ならこいつに見合うだけの働きをしないとな」


どういうわけかこの手土産を買うのにギリギリまで使っていることを見抜かれているらしい。


「ではお言葉に甘えてお願いしてもいいですか?」

「おう!4階層へ降りる階段の場所は分かるか?」

「はい、地図があるので大丈夫です」

「それじゃあさっそく行ってこい。時間はそうだな……夕方6時くらいに戻ってくればみんな戻てるだろう。それから顔合わせして、夕飯にするからな」


俺が腕時計をしているのを見て具体的な時間を指定してくれた。その時間なら4階層での探索時間もしっかり確保できそうだ。


「わかりました。6時くらいに戻ってきます」


そう言ってテツさんの段ボールハウスを出ると4階層に向かった。

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