第23話
「とりあえず手持ちで安全にできそうなことは一通りできたな。次はどれにするか……」
付与できる魔法一覧を開いて次にできることを考える。
「そういえば無属性魔法にシールドがあったな。盾を張る魔法だろうし、これなら安全に試せるか。付与する物は……とりあえずこれでいいか」
ウィンドの実験で小さく切り分けた皮膜の余りを取り出す。
「素材が魔石としか書いてないけどこれでも問題ないか?……『付与:シールド』」
風属性(微弱)の魔石を素材にして皮膜の表面に小さな円形の盾を張るイメージで付与をするとこれまで通り魔石が皮膜に吸い込まれて消える。
「付与はできたっぽいな。発動するとどうなる?」
魔石を皮膜に乗せるとまるで何かに弾かれるように魔石が転がり落ちた。
「弾かれた?」
何度やっても魔石は皮膜から転がり落ちるが一瞬魔石と皮膜の間に薄い膜のようなものが見えた気がした。
「発動したシールドが魔石を弾いてる?それならこれで……」
置いた魔石の上に皮膜をかぶせるとパッと皮膜の表面を覆うように薄い膜が現れた。
「イメージした通り、裏側にはシールドが出てないな。ウィンドウとウォーターはどれだけイメージしても出ないようにイメージしたところからも漏れ出てたのに……。片面にしか出ないのは元々の魔法の特性か?」
そんなことを考えながらシールドを爪で
「強度無さすぎ……。もっといい素材を使わないとダメか」
ウィンドとウォーターの実験で魔法の効果を上げるにはより良い素材を使うか有効範囲を絞ればいいのは分かっている。
今回使った皮膜はそもそも小さくカットしてあるものでこれ以上小さくして効果を上げても装備に付与した時には使い物にならない。そうなると効果を上げるには素材の質を上げるしかない。
「ここで手に入る素材の質はたかが知れているしやっぱり買うしかないか。それまではこのダンジョンで取れる素材で色々付与して、経験値を稼ぎつつ、素材を買うために稼ぐしかないか」
ため息を付きながら今日の実験を終えて休むことにした。
それから数日付与したウォーターで作った水を飲んで問題がなかったので今回の買い出しでテツさんに渡す見本用にもう茶こしと漏斗を買って、帰りに魔石も確保してきた。
それにすぐウォーターを付与してテツさんの小屋に持ち込む。
「テツさん、今ちょっといいですか?」
「おう、入っていいぞ」
小屋の前で声を掛けるとすぐに返事が返ってきた。
「おじゃましまーす」
「今日はどうした?」
「実は最近生産系スキルが増えて色々作れるようになったんですよ。それでもしよかったらテツさんに使ってみてもらえないかと思って」
そういって持ってきた茶こしをテーブルに置いた。
「なんだ?茶こしか?」
「そうですよ。俺がスキルで手を加えたのはこれだけなんですけど、これをこうして……」
一緒に持ってきたペットボトルに漏斗をセットして、そこに茶こしを嵌めて魔石を乗せるとペットボトルに水が溜まり始めた。
「おぉ、すげぇな!魔道具が作れんのか」
「魔道具ですか?」
ファンタジー物ではおなじみの名前だが、どうやらこちらでもそう呼ぶようだ。
「魔法的効果を持つ道具は魔道具だろ?てか魔道具を作れるようなスキルは希少だぞ。この見本持ってダンジョン系の会社に売り込みに行けば、よほどのことがない限り採用間違いなしだろ」
テツさんはやや興奮したようにそう言うが会社が俺を採用することはないだろ。戸籍がない以上就職に必要なもろもろの書類を用意できないし。
「まぁ自分も訳ありですからそういうのは無理なんですよ」
「あ~、まぁそうだよな……」
テツさんのテンションが一気に下がっていく。
「それでこれを使ってみてほしいって?」
「はい。この茶こしにはウォーターの魔法が付与されてるのでこの通り、魔石を触れさせると水が作られます。水は付与した物全体から出てくるので、茶こしに付与することでどこかに溜まることなく漏斗で容器に溜められます。魔石も茶こしに乗せるだけなので水を止める時に取り出すのも簡単です」
「なるほどな。ちなみにこれはどのくらいの水が出せるんだ?」
「確認したのは1階層のスライムの魔石と4階層のレッサーブラッドバットの魔石だけなんでけど、水が出るスピードに多少違いがありますけどどちらも500mlより少し多い位です」
「魔石の値段を考えると魔石を売って水を買ってきた方がコスパは良いが、買い出しで荷物が減らせることを考えると許容の範囲内か微妙な所だな。もう少し効率を上げられないのか?」
「付与には素材がいるんですけど、素材の質とかスキルレベル的には今の所これが限界みたいです」
「そうか。それじゃあしばらく使ってみるか」
「お願いします。使ってみて、改善点とか思うことがあれば教えてもらえると助かります」
「わかった。ちなみに他にはどんな付与ができるんだ?」
「えっとこんな感じです」
付与できる魔法一覧を表示すると『オープン』と唱える。
通常、ステータスや魔法一覧のようなウィンドウ表示は本人しか見えないが見せたい画面を表示して『オープン』を唱えるとそのウィンドウを人に見せることができるし、本人以外が操作して次の画面を見ることもできる。
ただ操作してもあくまで見れるだけで、それでスキルが発動することはない。
付与できる魔法と必要な素材をテツさんに見せると疑問の声が上がった。
「素材ってここに書いてあるやつしか使えないのか?」
「どういうことですか?」
「わざわざ必須素材って書いてあるからな。単に素材とか必要素材ならそれしか使えないと思うが、必須ってことはそれ以外が入る余地があるんじゃないか?」
そう言われて改めて付与一覧を確認すると確かに必要素材ではなく必須素材となっている。必須ということは他はともかくその素材が必ず必要ということでそれだけが素材ということではないはずだ。
「それは試したことなかったです。素材を集めたら試してみます」
「それで効率が上がったりしたらそっちも確認させてくれ。とりあえずお試しってことでこっちを使わせてもらって、効率が上がった物ができたらちゃんと金払って買うぞ」
「わかりました。その時はお願いします」
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