第2話

チュンチュン……。


眩しさと鳥の鳴き声で目が覚めた。体を起こして辺りを見渡すと見慣れた近所の公園だった。


「夢か。……俺なんでこんな所で寝てたんだ?…痛っ!」


昨日のこと思い出そうとすると酷い二日酔いの様な痛みが頭を襲い、ほとんど思い出すことができなかった。


「っかしいな……。呑むにしてもこんなになるような呑み方するはずないんだが」


深呼吸して頭痛が落ち着いてくるとゆっくりと立ち上がった。


「とりあえず、荷物は……」


辺りを見渡すがよく使っているカバンは見当たらない。ポケットも確認するが空っぽで、スマホはおろか財布も家の鍵すら入っていなかった。


「おいおいマジかよ」


公園の時計で時間を確認するとちょうど7時だった。


「はぁ、とりあえず帰るか。この時間ならまだ家に誰かいるだろ」


まずは交番とも思ったがそれよりも家の方が近い。一度家に帰ってから自転車で行くことにする。


公園を出て家に向かって歩き出すとすぐに違和感が襲った。


(あれ?あそこの家、あんな形だったか?あっちの家の外壁は黒だったはず……)


見慣れた町のはずなのに所々記憶と違う景色が不安となって胸の中に積み重なっていく。


「……よかった。うちはそのままだ」


記憶通りの場所に記憶通りの家があることにほっとしつつ、門に伸ばした手が止まった。


「表札が……」


門のすぐ脇のポストに取り付けられた表札には全く知らない苗字が掛けられていた


表札と睨めっこしていると玄関が開いてスーツ姿の男が家から出てきた。


「……どちら様ですか?」

「あ、えっと、こちら指宿いぶすきさんのお宅じゃ……?」

「いえ、うちは佐々木ですよ。」

「そうですか。すいません。家を間違えたみたいです」


そういって思わず先ほどの公園に向かって走りだした。




「はぁはぁはぁ……どうなってるんだ?」


電柱に手をついて不安と走った影響でバグバグと激しく動く心臓を落ち着かせる。


少し落ち着いた所で顔を上げると電柱に掛かれた住所が目に留まった。


江土河えどがわ区?南虎岩みなみこいわ?」


知っている住所と微妙に異なる住所に心臓がまた激しく脈打ち、ダラダラと冷や汗がながれる。


他の電柱も確認するがそこに記載された住所はすべて江土河えどがわ区南虎岩だった。


ふらふらと公園に入ると起きた時と同じベンチに腰を下ろした。


「どうなってるんだ?俺、おかしくなってないよな?俺の名前は指宿いぶすきつかさ21歳の大学生。両親、三つ下の弟と同居。昨日……のことははっきりとは思い出せないけど一昨日の土曜はいつも通り過ごしてたことは覚えてるな」


大学はシステム専攻でPCに張り付いた生活で運動しないと確実に太ると思った俺はジムに通ってしっかり運動していた。一昨日も日課通りジムに行って運動した記憶はある。


「って学校!……いやいや、財布がないからどこにも移動できないし、スマホもないから連絡もできない。交番行ったって自分の家に知らない人が住んでるなんてふざけてるとしか思われないよな」


頭を抱えて考えているとハッと一つの可能性が思い浮かんだ。


「あれは夢じゃなかった?いや、でも魔法とかダンジョンとかある世界だって言ってたし。こんな現代日本と変わらない世界なんて……。まさか現代にダンジョンが出現した系の現代ファンタジー?」


夢だと思っていた異世界へ転生の話。考えれば考えるほどその可能性がどんどん高くなっていく。


「……確認しよう。ダンジョンがある世界ならそれ関係の雑誌があるかもしれない。」


公園を出て近くのコンビニにやってくるとそこには見慣れた建物が建っていた。ただし、やはり店名が微妙に異なっていた。


店内に入り、雑誌コーナーに進むと雑誌を物色していく。


「あった」


棚には『週刊 ダンジョン・インフォ』『月刊 ザ・探索者』という雑誌が並んでいた。

立ち読みをしてみると『月刊 ザ・探索者』は最新装備やスキル、有名人らしき探索者の紹介、『週刊 ダンジョン・インフォ』の方は全国のダンジョン情報や発見されたレアアイテム、最近の買取相場の紹介をしていた。


「やっぱりダンジョンが出現した現代の世界なのか。」


パラパラとページをめくっていると最後のページに『誰でも入れる超低ランクダンジョン』というコーナーがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る