第12話

2階層へ降りる覚悟を決めた翌日。今日はダンジョンに入ると最短ルートを通って2階層への階段まで来た。


「よし、行くか!」


改めて覚悟を決めるように声に出して階段を下り、2階層へ足を踏み入れた。


一応3階層までのモンスターはレンタルカウンターで聞いてきている。


2階層に出るのはウィップトードという中型犬ほどの大きさのヒキガエルだ。名前にウィップと付く通り攻撃方法は舌を伸ばして鞭のように振ってくる。


洞窟を進むとべチャンべチャンと何か大きくて湿った物が地面に落ちるような音が何度も聞こえ、正面からウィップトードが近づいてきた。


ナイフの柄を握り締め、舌の攻撃を躱せる身構える。


「うぇ~……」


近づいてくると体のテカリやぬめりまで見え、元々カエルは嫌いではなかったが体の大きさも相まってなんとも言えない嫌悪感を抱かせる。


そして5mほどまで距離が縮まると動きが変わった。胸を張るようにグッと体を反らせると反動をつけるように体を戻しながら大きく口を開けて舌を伸ばして振り下ろしてきた。


慌てて頭をかばうように両腕を上げると舌はベシンと音を立てて腕を打ち付け、ビリビリと腕を痺れさせた。


「くっ!」


ナイフを落とさないように痺れる手に力を込めて握り直し、ウィップトードに向かって走り寄るとウィップトードも迎え撃つように舌を戻して再び胸を反らせる。


「させるか!」


腕を伸ばし、喉なのか胸なのか分からないが正面からウィップトードに深々とナイフを突き刺す。そのまま手首を返してグリっとナイフで内側を抉るとビクリと震え、力が抜けるように倒れ掛かってきた。


ナイフを引き抜いて少し後ずさると、そのままうつ伏せに倒れ、血溜まりを作っていく。


それから少ししてウィップトードは黒い霧となって消え、その後にはスライムよりわずかに大きい魔石が残されていた。


「………」


ウィップトードの死体と共に血だまりは消えたようだが手にはしっかりと血が残っていた。それが猛烈に熱く感じて、スライムの時には湧かなかった生き物を殺したという実感が強く沸き起こった。


「ふぅー……切り替えろ。生活するにはこれしかない。」


血に濡れた手とナイフを見つめて気が付いた。


「スライムの時は何も残らなかったのに……。血が残るなら拭くものがいるな。今日はもうしょうがないけど明日は何か用意しておかないとな」


数回振って血を飛ばすと次のモンスターを探して奥へと進み始めた。





「今日は2階層に降りたんですね。ウィップトードの魔石は1個あたり60円で40個、スライムの魔石は1個50円で7個。カエルの足が1本100で8本。合計3550円です。税を引いて3018円になりますが、すべて買い取りでよろしいですか?」

「はい。お願いします」


今回は2階層を回りきることができず、3階層への階段を見つける前に時間となって引き上げてきた。その頃にはウィップトードを倒すのにも慣れ、舌の攻撃を躱して淡々と狩ることができるようになっていた。


お金を受け取り出ていこうとするとレンタルカウンターの人に呼び止められた。


「更衣室にシャワーと洗濯乾燥機があるから血を洗い流して行ってください。そのまま外に出たらすぐ警察呼ばれますよ。」

「あっ……。はい、わかりました。」


返り血を浴びすぎて麻痺していた血だらけの両腕を見つめ直し、更衣室に入ると服を脱ぎ、一番小さいサイズの洗濯乾燥機を確認した。これも支援の一環なのか100円で洗濯から乾燥まで全部できるようになっていた。


脱いだ服を詰め込んで100円玉を1枚投入した。


そのままシャワールームに入るとこちらは無料らしく、ブースのカーテンを閉めて蛇口を捻ると頭上に固定されたシャワーヘッドから温水が降り注いだ。


顔や手に付いた血がお湯に溶けて排水溝へと流れていくのを見ながらウィップトードの魔石と肉の情報を整理していく。


魔石と肉の鑑定結果と継承内容はこんな感じだ。


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 魔石

 魔力を含んだ結晶

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 継承可能項目

 ・水属性(微弱)

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 カエルの足

 ウィップトードの後ろ足

 食用可

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 継承可能項目

 ・なし

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魔石に関しては大きさ以外はスライムの魔石と違いはない。足は食用可となってるのだから食えるのだろうが太もも部分だけ皮が剥がされ肉がむき出しになっているが膝から先は皮が残っていてカエルの足だと主張してくるので食べるのは勇気がいる。

継承可能項目もなかったので完全にただの食用肉としての価値しかなさそうだ。


「食べる覚悟を決めれば自分で焼くなりなんなりして食費を浮かせることはできそうだな」


さっぱりして出ようとしたところであることに気が付いた。


「タオルが無いじゃん。これも買っておかないとな」


どうせ洗濯もまだ終わっていないので買っておかないといけないものを頭の中でまとめながら体が乾くのを待つことにした。

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