第20話
「ですので! 。この地表戦闘パッケージをご購入いただけると、この肩部装着のM120.120mm迫撃砲を追加しますのでどうか、どうかご購入のご検討を──」
このアフガンの砂漠めいた光景の中に、場違いな連中がいた。
バタフライ・ドリームでの周辺経過で油田基地に唯一通じている公道のど真ん中、レイダーかアフガン解放戦線かのIED、
SUVから現れたのは新品であろうタイトなスーツスタイルのセールスウーマンで、顔に張り付けたような仮面のような笑顔で、名刺を渡してくる。
しかしそれを俺達は受け取るか、受け取るまいかと顔を相互に見合わせて、リーダーである葛藤さんに指示を仰いだ。
『ここは戦闘エリアです。一体何の御用でしょうか?』
「えーっとですね。私はバルカン重工業の営業担当官のエミレンスと申します。今回はホーク・ディード社様に弊社の武器ユニットパッケージをご提供をしたく参りまして、何卒どうか、弊社の兵器をご使用いただきたく存じます」
全員集まってこの珍客にどうすべきかと頭を悩めませた。
俺達は傭兵だ。弾も銃も必要だ、そして何よりも生活に必要な物資が必要だ。人であるが故に拘束される用途も様々だ。
しかしそれもホーク・ディード社、延いてはR.G.I社がそれを完璧に保障していて、社員の健康管理はその二社の沽券に係わる。
そんな中でこのバルカン重工業の営業担当が現れたのならどうなるのか。
「バタフライ2。どうしますこれ」
『非戦闘員を戦域に放置していくのは道徳に反する。油田基地まで先導しよう。レイダーに襲われて俺達のせいにされても堪ったもんじゃない』
俺達はIED除去を早々に切り上げバルカン重工業たちの護衛兼先導をし、油田基地へと招き入れた。
にしてもこいつら凄い量のハエを抱えている。
チラチラとトレーラー群からハエが飛びまわり鬱陶しくてたまらない。俺に集ってこないだけましだが、何なのだ。あのコンテナの中身は大量の死体でも詰まっているのだろうか。
油田基地に到着し、奇妙な珍客にホーク・ディード社員も現地民も物珍しさでコソコソ噂話だ。
格納エリアにドラゴを付け俺達はドラゴを脱ぎ、司令部テントへと向かう。
「妙なの連れてきな。バタフライ……」
狐顔で苛々している様子がハッキリと見て取れる基地司令に俺達もどうしたものかと言った様子であったが、そこはリーダーである葛藤さんが一歩前に出て答えた。
「バルカン重工業と名乗る者たちで、営業担当と──」
「それは見て分かる。あのトレーラーを見れば武器を積んでいるのは一目瞭然だ」
「いかがいたしましょう?」
「……面倒なのを連れて来たな。本当に」
それもそうだ。
第一にホーク・ディードの武器等々の補充はR.G.I社一本に絞ると言うのが社の方針で、R.G.I社が親会社としてホーク・ディード社は子会社、共存共栄が目的としているのに、こうした武器営業はハッキリ言って仕事の邪魔者としか言いようがない。
武器の買い付け流通はR.G.I社の十八番、それをわざわざ別の会社から受注すると言うのは反感の元で、基地司令としてはいち早く帰っていただきたいのだろう。
面倒臭そうに親指の爪を噛んでいる基地司令のピリピリとした雰囲気に葛藤さんもバルカン重工業の連中を帰そうかと提言するに出来ない様子であった。
「あ、すいません。私バルカン重工業の営業担当官エミレンスと申します。今回はホーク・ディード社様に弊社の武器ユニットパッケージをご提供をしたく参りまして」
「聞いている。武器の押し売りだろう。ここは潤沢に弾も銃もドラゴも足りている」
「そう言わずに。こちらの通信索敵ユニットなどいかがでしょうか? 。索敵範囲は半径五キロ圏内をすべて網羅していまして軟殻やメッシュネット端末との互換性もございます。他にもこちらの追加装甲パッケージなどはリアクティブ・アーマーを採用していまして30口径近接ショットガンの耐久テストを合格しておりまして、第一種機ドラゴの全機体に対し装甲可能となってます──」
すらすらとよくもまあ回る舌を持っている事だ。
営業担当官エミレンスと言ったか。何と言うか、どれも的外れと言った具合だ。
通信索敵ユニットで言えば『メッシュネット通信中継設備ユニットパッケージシリーズ2』で十分事足りているし、何より性能不足、シリーズ2は半径十キロだ。
追加装甲のリアクティブ・アーマーだってはっきりな話、わざわざ機体重量を増やして迄守る事もない。こんな荒れ果て地で必要なのは防御力よりも機動性で、守る体で行くなら腕部ハードポイントのオプションパーツでリアクティブ・シールドがありそっちは散弾ではなく50口径の硬芯徹甲弾を防いだテスト記録まである。
今迄紹介ている兵器ユニットの全てが言うなれば二番手、どれも兵器テストで散々な結果を打ち立てたモノばかり、矢が明後日の方向を向いているんだ。
「こちらの潜水ユニットなどどうでしょう。海底300メートルまで圧搾を防ぐ実績がございまして弊社のカタログ値では400メートルも耐える機能がございます」
「貴様は言った何処を見ている。ここに海があると思うのか?」
「いえいえ弊社は、今後ホーク・ディード社様と深く長くお付き合いを願いまして今後海底任務等の事がありました際のご提案をしております」
「私たちはライオット・グラディアス・インダストリーの潤沢な支援がある。定期的な装備の補給が行われている」
「そうでございましたかー。いやー、それは非常に残念であります。残念です──」
基地司令の耳の横でコソコソッと喋ったエミレンスの後ろ姿は何か、雰囲気がおかしい。暗い、オーラとでも言えばいいのか紫や黒と言ったそんな雰囲気が似合いそうな気配がする。
「……販売だけだ。戦闘社員の武器選択権は自由だ。バタフライ! 。こいつらを丁重に案内して差し上げろ、帰り迄しっかりとな」
『了解です』
察しは付いていた。コイツ、エミレンスと名乗った女。
商品を売りつける為なら脅しまで使うのか。
恐らく基地司令の耳元で言った内容はこうだろう。
『我が社の製品をご購入されないのでしたら、この周辺でお求めしている方々にご購入を検討していただきます』
と。
判り易い脅し文句だ。この周辺で武器を欲しがっているのは二種類だ。
レイダーか、アフガン解放戦線の兵士。
レイダーは言うまでもなく、アフガニスタン政府がオール・フォーマットで財政破綻し国体が維持できなくなり国家消滅とNATO、北大西洋条約機構が認定し国としての体裁が一切なくなりパキスタンと併合され今がある。
無論、オール・フォーマットはある種の災害のようなもので、アフガニスタンの元軍人たちは国を取り戻すと言って憚らない。
そんな連中に武器を流されると、ホーク・ディードとしても少々厄介な事になる。
今迄主だったドラゴ戦は発生したケースは数少ないが、バルカン重工業がもしも敵側にドラゴを流したのならもう言わなくても分かるだろう? 。泥沼だ。
PKF、
俺達はその目付け役として、要は監視の命令を今基地司令に下されたのだ。
俺としても敵にドラゴが混じってくるのは勘弁被りたい、死にたくないから。
「どうします。こいつ等……」
葛藤さんに聞くと、葛藤さんも面倒臭そうにチラッとバルカン重工業を見て言う。
「基地司令の命令だ。武器販売促進って案内をするなら格納エリアが最適だろう。……面倒なの連れて帰ってきちまった」
バルカン重工業の連中をドラゴ格納エリアに案内しるとここぞとばかりに連中はトレーラーを開け、コンテナの中身を広げ始めたではないか。
武器が出るわ出るわ。同時に出てくる無数のコバエたちに俺は眼を背けたくなった。鬱陶しいのがブワッと、そうブワッと出てきて手でそれを払いのけた。
先ほど喧伝していた通信ユニットや追加装甲ユニットに、他の武器武器。
ドラゴ仕様H&K GMWに、中国の87式グレネードランチャードラゴ仕様改良型もある。他にも肩部装備の全自動装填105mm榴弾迫撃砲に地対空飛来物迎撃レーザーユニット『光の矢』もある。
にしても通信関係の装備ユニットが多く、それに集るようにコバエが舞っているのに俺は辟易する。
声を大きく防衛見本市、フランスで二年おきに開催される『ユーロサトリ』の様相で武器を叩き売りを始めるバルカン重工業。
「基地司令はどうすんですかねぇ。こいつ等」
「武器装備の選択権は社員の自由だからな、こいつ等から武器を買うのは社員の自由だ。ホーク・ディードとしてはびた一文も払いたくないから、社員の100%の自腹購入になるだろうがな」
「ハッ! 。誰が買うんだか」
「買うんだなソレが」
紙白がそういい指を差すバルカン重工業連中の出店に戦闘社員たちは興味津々とばかりに寄り集まり始めるではないか。
そう、こんな僻地でR.G.I社の補給だけで間に合わせると必然と──殺しの幅が狭まるのだ。
R.G.I社もホーク・ディードも油田基地防衛に必要な装備を選定し、輸送してきているがために、超長距離狙撃装備や近接格闘装備などのマニア向けの装備は固定され所謂マンネリが起こってしまうのだ。
戦闘社員はある意味ではアーティストの集まりだ。如何に綺麗な殺しが出来るかを探求する外道どもだ。マテュテで頭を割るにしても飽きが来る、アンツィオ20mmドラゴ改良狙撃ライフルで敵を飛び散らせるにしても飽きが来る。
だから銃を変え、弾を変え、獲物を変えて四苦八苦しながら新しい殺し方をしているのだ。
「アタシ見てこようかな……新しい近接装備欲しかったんだぁ。あ! 。見てよアレ、近接専用の電動丸鋸って斬新じゃない!」
「私はあの80口径折り畳み自動組み立て狙撃ライフルが気になるわね」
「おいおい、お嬢様方。武器に色目を使うのはいいけど監視も忘れんでね」
確かにバルカン重工業の提案する武器類は斬新だった。ホーク・ディードやR.G.I社が提示する殺しとはまた違った、遊びのある『殺し』を提案し武器を披露していた。
しかしちょっと特化し過ぎているのは俺の目から見ても思えた。
紙白や柊が興味が惹かれるのは分かる。紙白の得意とする長距離射撃には大型銃身の装備は中々装備しにくい、柊は近接戦が時だしあの補助腕換装の近接戦ブレードは魅力的に見えるだろう。
しかしだ、俺達バタフライ・ドリームは対ドラゴ戦を目的として設立したとフランシス班長が言っていて、あのような超大型折り畳み自動組み立て対物ライフルは不要だ。
近接戦に措いても補助腕換装の近接戦ブレードはドラゴの設計構造を一から見直して、腕部構造を組み立て直さないといけない。
有り体に言って費用対効果が見合ってない。元からのコンセプトがそう言ったモノなら納得はいくが、ドラゴは代替可能な戦車と歩兵のハイブリッドソルジャー兵器。
安価で強力な兵器にそれに見合わない高額な兵器を積んだ所で、意味が失われるだけの話だ。
ワイワイガヤガヤと武器見本市は盛況で、バーンズ軍曹が補助腕換装近接戦ブレードユニットを買って俺に続けーッと言わんばかりだった。
「いいか。お前たち奴らからは弾の一発たりとも買うな。これはリーダー命令だ」
葛藤さんが念を押す様にそう言う。当然だろうな。
あれは整備部からうるさく言われる代物ばかりだ。超大型狙撃ライフルは解体組み立てフレームの歪み等を調べるのに時間が掛かるだろう。補助腕換装装備は言うまでもなくドラゴの構成を一から見直さないといけなくなる。
他の大型自動組み立て兵器もライフルと同様。弾をばら撒くだけのゴミだ。
「うー、アタシもあれ装備してみたかったー」
「今度バーンズ軍曹に機体乗せて貰えよ。あの人女ならだれでもいい見たいだし」
「オッサン臭い軟殻ほど邪悪な物はないよ。身の毛もよだつ」
「なら諦めろ。さっさとドラゴに戻るぞー。基地司令命令じゃ、アイツ等が帰るまでが任務だからな」
「アイアイ・サー。嗚呼かったるいかったるいかったるいなぁ」
愚痴る柊を横目に俺はドラゴへと戻って軟殻に体を埋め込んだ。
やっぱり、ドラゴはこの形態でないと──落ち着かない。
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