第3話
「ああぁ。緊張する……」
面接なんていつぶりだろうか。オンライン面接だが一応とばかりにスーツを着てスマートグラスのカメラを電源を付けた立った。
ネクタイの結び方なんてとうに忘れたし、何よりこんな簡単に書類選考をパスするとは思ってもみなかった。
ホーク・ディード社。
日本ではかなり名の通った上場企業であり、全世界に27支部もの支店を持つ世界有数の民間軍事会社であることが後々知った。
やっつけ仕事の運任せで応募してみると、あれよあれよと面接の日時が決まり、そして今に至った。
兄ちゃんにそれを報告すると飛んで喜んで、ようやく俺が働いてくれると仏前で手を合わせて面接合格の祈願をして神社に参拝に連れて行かれた。
そんな願掛けlikeの無駄だと思うが、神様がいてくれるなら、俺を合格に導いてくれるだろうか? 。
ポン、っとスマートグラスに着信がきた。自室で緊張でガチガチになっている俺は震える手でスマートグラスの着信ウィンドウをタップした。
『こんにちは皆さん。初めまして。私はホーク・ディード社の第一警備組の班長、フランシス・コンソールティです。今日はよろしくお願いします』
スマートグラスに投影された面接官の姿。拡張現実と仮想現実の良い所を半々取り合わせた感じに投影される面接官が立ち姿をが現れた。
かなりの美形の女性だった。すらっとした身体つきにに短くカットされたブロンドの髪、美女──と言うよりどちらかと言うのならイケメン、王子様系といった感じの女性だった。
横目でちらっと隣を見ると俺の他にも面接を受けに来た人間が要るようだ。
(集団面接だったのかよ……)
面接事項には書いてなかった。
書いとけよまったく……と心の中で愚痴って見ても意味わないし、何より面接がもう始まっている。
少しだけ対抗馬になりえるライバルたちを見ると。
(日防軍……?)
日防軍の制服だろうか? 。それを着た若者たちが何人か見受けられる。誰も彼もがガタイがいい。肩幅も広いしガッチリとしている。
確かに求人欄には民間軍事会社関係だと、そう言ったボディーワーク経験が必要となってくるんじゃなかろうか? 。
いやでも応募要項でそう言った格闘技経験などは書いていなかった。だったら大丈夫、大丈夫なはずだ。そう自分に言い聞かせる。
ダルダルヒョロでタッパだけはまあまあある俺が、ダボついたスーツを着てるのはこういった時に舐められない為に。少しでも着膨れして大きく見せる為だった。
『それでは右の形から順に我が社を応募した理由をお聞かせください』
それっぽい面接が始まって右端の奴が声高らかに自己紹介交じりの応募理由をつらつらと溌溂と話す。
国の為だとか、防衛のためだとか、ご高説を垂れているがそのほとんどが俺の頭には全くそれは入ってこなかった、何せ興味がなかったからだ。
わざわざ他人に耳を貸して共感するというのは大変苦労が掛かる行為で、それに消費されるエネルギーの釣り合いを考えると、ハッキリ言って釣り合いが取れない。
俺の体力と相手の使った体力の釣り合いが全く以て取れてない。
次々と当てられた連中が思いの丈をぶちまけた様に、嘘偽りなく自分が思い描く民間軍事会社のイメージでそれらを語り、難民を守りたいだの、国防だのと言っている。足早に次々とそう応募者たちが言っている。
俺は聞いているだけで致命傷だ。人に気を使うなんてそれこそ自殺行為だ。
自分の事で手一杯、自分が可愛くて仕方ない。そしてできうる限りは楽がしたいのだ。
そして──。
瞬間、チカチカッとスマートグラスの投影画面が点滅したようだった。
『君、君? 。君の番だよ?』
面接官が俺を読んで俺の質疑応答が始まった。
「ええっと俺は……まともになりたくて応募しました」
『まとも? 。君まともじゃないの?』
「少なくとも……精神障害を抱えるにはまともじゃないと思います。でも思考はハッキリしていて、冷静なところが、狂気の中に正気な部分があるのは分かります……」
『ふん……じゃあここに就職出来たらまともになれるの?』
「likeを稼げるだけまともじゃないですか……? 。俺はそう思います。資本主義の根本ですし」
面接官はどこか満足そうに頷いて、そして聞いてきた。
『どこで覚悟がある? 。仕事をやるにあたっての覚悟の度合いで言うのなら』
少しだけ俺は考えて、そして答えた。
率直な答えだった。
「人を殺せって言われた殺せます。それが仕事なら……」
ニコッと笑った面接官は俺の隣の奴に眼をやって俺の質疑応答が終わった。
ハッとする。何を応えた俺、何か、いや、とんでもないこと言ったがする。
訂正しようにも、もう手遅れな気がするし何よりそんな雰囲気じゃない。他の応募者たちはコイツ正気か? 、と言った様子で俺を見ているし、何より俺が口走った事はとんでもない事のような気がする。
だが──本心で答えたような、何とも腑に落ちない、不快感のような。嘘をついたときのあの白々しさ、後ろめたさのようなそんな感覚が俺の中で無くて、それが姿を現さなくて、喉に小骨がひかかったような、奥歯の隙間に焼き肉の破片が挟まったような妙な不快感だけが俺の中に残っていた。
『じゃあ最後に、君』
最後に当てられた奴、俺の隣にいる奴。
この中での唯一の女性。まだ二十代ぐらいだろうか。俺もまだ二十代だが、俺よりも若く見える。
僅かに浅黒い健康的な褐色の肌で晴れ晴れと言った様子で答えた。
『likeの為です。借金で生活が苦しいんで契約金がいい弊社を応募しました』
おいコイツマジかと俺は驚いてそいつの顔を見た。自信ありげに語るそいつに面接官は大笑いだった。
『ハハハハッ! 。いいね。率直で判り易い』
『弊社の給与が良かったんで応募しました。それ以上でもそれ以下でもありません。likeが欲しいんです』
『オーケー、オーケー。君はもういいよ』
終わったなこいつ落ちたわっ、と俺は思う。
こうもスパッと答える馬鹿が一体どこにいる。面接なんて嘘八丁手八丁の大ウソつき大会なのに、こんな真っ向から思ってることをぶちまける奴がどこにいる。ここまでハッキリという奴いっそ清々しい迄あるが。
面接官は手に持ったタブレットを何度かタップしてにこに笑った。
『ありがとう質疑応答はこれで終わりだ。大変優位意義な質疑応答になった。合格の是非は後日このチャンネルでメッセージで遅らせて貰うよ』
そう言い。面接が終わる。
俺はハアっと足から崩れ落ちるようにベットに寝転がった。
疲れた。受かった手応えも感じないし、何より俺の質疑応答ズタボロだな気がする。
スマートグラスを外して呟いた。
「落ちたな」
自信を持って言える。落ちた。
奇妙な感覚。既視感デジャブのような感覚があるがある。一体なのだろうか。
俺はこの堅苦しい鎧、スーツを脱ぎ捨ててようやく身軽になってベランダに出た。煙草を一本摘まみだして咥えて、ゴッツイライター、アルミ缶も両断する火力のあるターボライターで火を付けて肺の隅々まで煙で満たして紫煙を吐いた。
さて、兄ちゃんへの就職活動しているアピールはこれでいいだろう。数ヶ月はこれで持つはずだが、まあいつかは本気で就職しないといけないな。
ホーク・ディード社が受かったとして、まあ落ちているだろうが。受かったとしたら俺はどうなる事だろうか? 。
求人票を見れば試用研修で三か月ほど施設で研修を受ける事になっているが、一体何をするのやら。
どうだっていい。どうだってもいいが、今はlikeの少なさに嫌気がさしそうだ。
スマートグラスを掛けて所持like残高を見ると3万like。退院して一週間で2万likeも煙草やエナジードリンクで散財してどんどんと俺の社会的信用価値が無くなっていく。
ああ消え入りたい。蒲公英の綿毛の様に。吹けば風に乗って飛んでいく綿毛の様に消え入りたかった。
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