第5話 頼まれごと

「君は一体何者だ。武器も持たず盗賊に仕掛けるのもそうだが、その回復魔法の腕前。しかも攻撃魔法も無詠唱とは。こんな魔法の使い手は王都の魔法師団でも見たことが無い」


「いや、ただの旅人ですよ。馬車の傍で倒れてる人を助けたら盗賊に襲われて皆さんが森に逃げたって聞いたんで助けに入っただけです」


「馬車の場所から森に入ったのなら途中で仲間を見なかったかね。追手の足止めに残ったんだが」


「確かに途中に三人倒れてました。二人は盗賊で一人は貴方達と同じような服を着ていましたが既に」


「そうか、フェルナンドは・・・」


 隊長は沈痛な面持ちを隠すように俯いた。


「そうだ、馬車の傍で倒れてた人も怪我してたんだ。心配だから戻りますね」


「まあ待て。私はサルバトーリ。ルカ・サルバトーリという老いぼれじゃ。命を救ってくれて感謝する。旅人と言ったな。ここからならローバーへ向かうのか?」


「俺はジン。ユウキ・ジンです。当てのない旅なんで特に決めてません。そこが一番近い街ですか?」


「そうじゃな。ここからなら20キロはないじゃろう。今からなら陽が落ちる前に着けるはずじゃ。ワシらは急ぎで王都に行かねばならんが、ローバーに行くなら一つ頼まれてくれんか。ローデリア商会のバランと言う男にこれを渡して欲しい。礼はバランがしてくれるじゃろう」


 渡されたのはゴツイ台座に盾と獅子の文様が精密に描かれた指輪だった。


「街に入る時にも役に立つはずじゃ。後はほれ、これも持っていけ」


 子供の小遣いのように金貨を3枚渡された。


「こんなに貰えませんよ。指輪だって旅のついでに持っていくだけですから」


「いいから持っておけ。いらないなら指輪と一緒にバランに渡してくれればいい」


「分かりました。では、お預かりします。じゃあ、馬車に戻りますね。怪我が大丈夫そうならそのままローバーに向かいます。それじゃ」


 軽く右手を上げ馬車に向かって走り去るジンの背中を見ながら隊長が老人に語り掛ける。


「翁、行かせてしまって宜しかったのですか」


「ジンと言ったか。あの青年、大いに気になるところじゃが、今の我らには果たさねばならぬ事がある。ローバーに行くのならバランが上手くやってくれるじゃろうて。ワシらもゆっくりはしておられんな。盗賊の持ち物を確認しろ。何か持っているかもしれん。フェルナンドも弔ってやらねばなるまい。すまん事をした」


「翁もメリル様もご無事なのですから奴も本望でしょう。それが我らの務めですから」


 隊長はそう言って一礼すると、持ち物を検めるため盗賊の下に向かった。




 道に戻ると御者らしき人は眠ったままだった。寝息も安定してるから大丈夫そうだ。横転している馬車を見ると車輪や車軸は大丈夫そうなので起こしておく。馬が居れば引けるだろう。でも辺りには馬が見当たらない。


 考えても馬が戻ってくる訳じゃないだろうから、ここに突っ立ってても意味が無い。馬を探しながらローバーを目指す事にした。歩く事10分、横の叢に6頭纏まってた。


「おい、お前ら」


 馬が揃って俺を見る。


『なんだこいつ。さっきの奴らの仲間か。俺たちを捕まえに来たのか』


「盗賊は死んだ。お前たちの主人が戻ってくるからお前たちも馬車まで戻れ」


『なっ、こいつ俺たちの言ってる事が分かるのか?』


「ああ、そうだ。だからもう安全だ。急いで王都に行くって言ってたから、お前ら居ないと困るだろう。世話してもらってたんだからちゃんと恩は返せ」


『分かった。安全なら戻るよ。俺たちだって主人の役には立ちたいからな』


 そう言って叢を出て道を馬車に向かってパカパカと歩いていく馬たちを見送る。


 はい、全言語理解はポンコツ仕様のブッ壊れスキルでした。


 小屋に居る時も話し声が聞こえる方には鳥しかいなかったから怪しいとは思ってたけど確定です。ちょっと妖精とか期待してたのに。


 思念伝達テレバシー共鳴エンパス絡みなんだろうけど動物の言葉も分かるようです。まったくあのポンコツの辞書には常識て言葉は無いんかい。ケッ。

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