第26話 ギルドにて
「ラント、予定よりだいぶ早かったな。もう終わったのか?」
ギルドの二階にあるギルドマスターの部屋である。
通常の依頼であれば一階の窓口で終了報告して終わりだが、今回はギルドの依頼なのでギルドマスターへの直接報告が必要になる。その為、受付で要件を告げるとこの部屋まで案内された。
部屋の主は荒くれ者が多い冒険者ギルドのマスターという肩書にしては若くスマートな体躯の男だった。
マクシミリアン・モロー、39歳。剣と魔法の才能を併せ持ち、若くして六つ星となった一流冒険者だ。その功績により一代限りではあるが
その剣は目にも留まらぬ速さで繰り出され、強力な魔法は火・風・土の三属性をいとも容易く操る国内屈指の使い手だ。
「小鬼討伐程度じゃ物足りなかったか?まあ座れよ」
自分もテーブルに移動しながらラントに着席を促す。
「物足りない?冗談でしょマックスさん。今回はギルドの
「
「いえ、必要ありません。倒しましたから」
取り出した袋をテーブルの上で逆さにすると6個の魔石が転がり出た。一つは明らかに他より大きい。
「倒しただと。あの人数で?全員無事なのか?」
「ええ、将軍1匹、呪術士2匹、戦士3匹のホブゴブリンと小鬼は大体200ですね。逃がしたのは多くはないはずですから心配はないでしょう。俺も含め怪我はしましたけど
「どうやったら今回のメンバーでそんな結果になるんだ?」
「それを説明するには誓いが絡みます。それでも聞きますか」
誓い。それは冒険者たちが自らの身を護るために、その情報をその場限りのものとして扱い秘する事。いつ、誰と、何処で相対するかも分からぬ冒険者たちが自らの切り札を温存するための決まり事。破ったとしても公的に罰せられる事はないが、冒険者の世界では生きて行けなくなるだろう。
ギルドマスターとて無理に聞き出すことはできない。ここまで言われて、それでも話を聞くのならそれは自らもリスクを負って誓いに加わるという事だ。
マックスは考える。
ギルドからの依頼は達成されており、当面の危険は排除されている。それで十分ではないか?結果までの経緯を自らがリスクを負ってまで確認するべきなのか?
普段であれば聞かない。報酬を渡して終わりにするだろう。しかし、今回は違った。まず結果が異常だ。想定に倍する小鬼の数はもちろんだがホブゴブリンが6匹。今回の倍の戦力であっても達成は難しいだろう。ラント達の腕は信用できるがそれだけでは到底無理と思える結果なのだ。
例えば今回のメンバーに自分が加わったらどうだろうか。何とかなるかもしれないが恐らく何人かは死ぬだろう。今回のように全員揃って無傷で帰還する事はできない。つまり、六つ星の自分の戦力を補って余りある何かがあるのだ。その何かが悪い方向に働けば自分では抑えられない。ギルドを束ねる者として予め情報を把握し対策を練る必要があると判断した。
「聞こう。無暗に口外しない事は私も誓う」
「分かりました。マックスさんはジンという
「いや、聞いたことが無いな。そいつがどうしたんだ」
「転移魔法が使えます」
「転移魔法!そんな奴が何で一つ星冒険者なんかやってる!魔法士団は知ってるのか?」
「知らないようです。だから誓いなんですよ。本人はギルド登録の時も申告してません。本人曰く騒ぎにしないで普通に暮らすことが望みだそうです」
「そんな事できる訳ないだろう。転移魔法なんて国でも数えるほどしか使い手がいないんだぞ。だが、転移魔法じゃ
「雷魔法と火魔法を半端ではない威力で使えます。雷魔法は実際には見ていないんですけど
「……」
マックスの開いた口が塞がる事はなかった。
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