第27話 一級秘匿事項
「マックスさんの気持ちはわかります。俺も自分で体験してなきゃ信じられない話ですから。体験しても転移魔法なんて訳わかりませんけどね。でも、全て本当の事です。必要ならマットでも呼びましょうか?」
「い、いやお前さんを信用しない訳じゃないんだが、内容があまりにな。で、その出鱈目な小僧は今どうしてるんだ?」
何とかこの世に帰ってきたマックスがラントに尋ねる。
「小僧ではないですね。本人は19歳と言ってました。恐らく宿に戻ってるでしょう。白銀亭だそうです。ローデリア商会の世話になってるみたいですね」
「ローデリアって事はバランさんはこの事を知ってるのか?」
「一緒に来ていたローデリア商会の人間も知らなかったみたいですから恐らく知らないでしょう」
「討伐遠征にまで商会の人間を同行させるって事はかなり警戒して監視してるんじゃないのか?まあいい、その辺は俺の方で探りを入れてみる。ホントに何者なんだよ」
「じゃあ、後はお任せしますね。誓いがあるなら聞かないって言われなくて良かったですよ。内容が内容なんで俺たちだけじゃパンクしそうでしたから」
「俺は聞いちまった事を後悔してるよ。でも今聞いて良かったとも思ってる。この話をギルドマスター権限で一級秘匿事項に指定する。ギルドとして一切の口外を禁じる。こいつは破れば誓いと違って刑罰があるぞ。参加者全員によく言っておいてくれ」
「今頃はみんな宿で飯食ってるでしょうからそのくらいは協力しますよ。ああ、最後に俺の印象ですけどね、悪い奴じゃないと思いますよ。ただ、浮世離れしてるというか世間を知らないというか不思議な感じのするヤツです。味方にしておかないととんでもない事になりそうですけどね」
そう言ってラントは部屋を出て行った。
ラントの背中を見送ったマックスは背もたれに寄りかかり深いため息ををつく。
(転移魔法だけでも驚きなのに
意外とジンと気が合いそうな人物である。
「バラン様、ギルドマスターのモロー騎士爵様がおいでですがいかがいたしましょうか?」
マックスの行動は速かった。個人的な思いとは別にやることはやるのである。
「珍しい客だな。通してくれ」
「畏まりました」
執事然とした初老の男性が部屋を去る。
それでも今までにわざわざ店にまで出向いてくることなどなかった相手の来訪の目的を考える。
互いに共通する事で変わった事は多くはないから
この街に来てからバランが気にかけ、数日前に冒険者としてギルドに登録をした一人の青年。
彼は討伐遠征から無事に帰還し既に宿に戻っている。それは同行させたアレックスから報告を受けているし、明日は本人と一緒に面会したいとの申し出を受けて時間を取ったばかりだ。
ルカ様が戻るまで彼を街に引き止めたいと思う自分としては、討伐遠征などと街の外での危険な事は避けたいのだが本人の希望がある以上、強く引き止め怪しまれるのも避けねばならず、成り行きを見守る事しかできなかった。
無事な帰還の知らせで一息つけるかと思った矢先のギルドマスターの訪問だった。
遠征で何かがあったのだ。ギルドマスターが動かねばならぬ程の事が。アレックスもその報告の為の明日の面会なのだろ。
マックスは信頼できる相手だ。目的のためにここで巻き込むのも手かもしれない、などと考えていると相手が部屋に入ってきた。
「バランさん、先触れもせずに申し訳ありません。ちょっと急ぎで確認したいことがあったので」
「問題はないよ。もう今日の予定は済んでいるから時間は大丈夫だ」
そう言ってソファーへの着座を促す。
「すいません。早速なんですがジンという冒険者はご存じですね?」
探りを入れるどころかド直球であった。しかもど真ん中。回り諄い腹芸は好みではないのだ。
「ああ、届け物をしてもらった縁で私が個人的に面倒を見ているよ」
『やはりか』との想いを表に出すことなくバランは答えた。
「どういうヤツなんですか?ちょっと確認の必要ができたんで」
「小鬼の討伐遠征に出たと聞いているが何かあったのか?」
「いや、遠征自体は達成して街に戻ってきました。ただ、その
「ふむ、私も元とはいえ冒険者だ。誓いを理解し信義に
「助かります。それとこの話は私の権限で秘匿事項に指定しました。後出しの様で申し訳ないんですが協力してください」
ギルドマスターが秘匿事項と認定する程に話は大きくなっているのか。驚くバランであった。なお、権者がその判断により話をすることは当然これに触れる事はない。
「わかった。それも含めて話を聞こう」
「それでは…」
マクシミリアンは話し始めた。
周りの騒ぎなど知る由のない無自覚迷惑男が寝転がっていた宿のベットの上で大きな問題に気付いて跳び起きた。
「あっ、ヤバい。オルフェ放ったらかしにしてた」
結構どうでもいい話であった。
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