第28話 面談

 ジンとアレックスが翌日の昼過ぎに訪れたローデリア商会では二人の男が彼らを出迎えた。バランとマックスである。


 結果としてバランはマックスを巻き込むことにしたのだ。正確には巻き込む以外の選択肢が見つからなかったのだが。


 マックスの口から語られた討伐遠征の顛末は衝撃的すぎた。自らも冒険者であったバランでさえ容易に信じる事が出来ない内容であったのだ。多くの困難な依頼を達成し、傭兵として国軍や魔法士団と行動を共にした事もあるバランでさえ見たことも聞いたこともない話だったのだから無理はない。


 王都からの早馬により己の考えが正しかったことを確認できている現状では、ジンの慰留という目的を果たすためにはギルドの協力が不可欠と判断したのだ。


 一方のマックスはジンの人となりを知るために面談の機会を欲した。秘匿事項を提供するリスクの見返りではないが、その結果として本来であれば内々の話になり部外者は立ち入れないであろう今日の面談に席を得る事ができ、望外の成果に喜んでいた。


「ジン君、よく来てくれた。ああ、彼は冒険者ギルドのギルドマスター、マクシミリアン・モロー騎士爵だ。今日の話は討伐遠征の話だろう?なら一緒に話を聞いてもらった方がいいかと思ってね。構わないかな?」


「バランさんがいいなら私は構いませんよ。一つ星ルーキーのジンです。バランさんにお世話になってます」


 勿論、バランが言う限りアレックスに否はないだろう。


「初めましてだな。俺はマクシミリアン・モロー。この街のギルドマスターだ。街ではマックスで通してるからそう呼んでくれ。宜しくな」


 差し出された右手を握り握手を交わす。冒険者としてはスマートな体格だが、その手は予想より大きく硬い。


「宜しくお願いします、マックスさん。ラントから報告は聞いたんですよね?」


「ああ聞いてる。だいぶ興味深い内容だったから迷惑かもしれんが今日は押しかけさせてもらったよ。ぜひ君に会ってみたくてね」


「いえ、こちらこそギルドマスターにお会いできて光栄です」


「挨拶が済んだのならまずは遠征の話を聞かせてもらおうか。それでいいなアレックス?」


「はい、では私からお話しさせて頂きます」




 アレックスの報告は細かい差異はあるものの大筋では昨日マックスから聞いた話と同じものだった。


「聞けば聞くほど信じがたい話だな。それでお前アレックスはジン君に自分の事情を話し、ここに来たという事だな」


「はい。誓いがなされ、これ以上の任務の継続が困難と考えて、私の判断で全てをお話しさせていただきました。その咎は如何様であろうとも甘んじて受けさせていただきます。申し訳ありませんでした」


 そう言ってアレックスは席を立ち頭を下げた。


「お前は真面目過ぎるな。こうなる事は誰も予想できまい。最初から私がジン君に素直に話してお願いすべきだった事だ。つまりお前の責などないのだから気にする必要はない。悪意からではないにしろ監視を付けて申し訳なかったとまずは私がジン君に謝るべきだろうな。許してもらえるかな?」


「私には何も害がないんですから許すも許さないもないでしょ。いい宿に泊めてもらって道具を揃えて貰って好き勝手やってるだけですから。冒険者にもなれたし。私はこの件でアレックスが罰を受けなければそれで十分ですよ」


「そう言ってもらえると私も助かるな」


「そうなるとやっぱり問題になるのは君の力だろ。昨日連絡した通り秘匿事項に指定して拡散はある程度防げるだろうが、今後はどうするのがいいもんかねぇ〜」


 マックスが腕を組んで考え込む。


「その話、ワシに任せてもらえんかな」


 突然かけられた声に一同が扉の方を振り向くと、部屋の入り口に一人の矍鑠かくしゃくとした老人が立っていた。


「ルカ様、お戻りになられたのですか」


 驚きの声とともに俺以外の三人が立ち上がり、右手を胸に添え頭を垂れる。


 仕方ない。真似しとこ。


「うむ、着いたばかりだ。面倒を掛けたなバラン」


「いえ、面倒などと滅相もございません」


「ジン、あの時は世話になった。街で不便はなかったか?」


「はい。バラン様の御取り計らいにより恙無く過ごさせて頂いております。それよりもあの時はまさか侯爵様とは存じ上げず、失礼の数々お許しいただきたくお詫び申し上げます」


 俺だってTPOを弁えたこれぐらいの対応はできますよ。


「ほう、そのような事もできるのだな。感心な事だ。気にする必要はない。あの場にジンがいなければ私がここにいることもなかっただろうからな。肩書など忘れてあの時のように楽にしてくれて構わんよ。私もそちらの方が助かる」


「ご配慮、痛み入ります」


 バランが上座を譲り全員が再び腰を下ろす。


「それでは詳細を聞かせてくれマクシミリアン」


「はい、では…」


 マックスから再び事の成り行きが説明された。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る