第42話 困り事
防壁の回廊から砦の前の景色を眺める。
荒涼とした岩肌が広がる景色は一見すると同じ様だが、森との境界が大きく後退し見通しが良くなっていた。
そこにあったはずの森の一角をなす木々は消し炭すら残さず魔法の炎に焼き払われ消えたのだ。
どれだけの熱量があればそんな事が可能なのか。
しかし、あの時見た燃え盛る青い炎からは頬を嬲るような熱は感じなかった。
魔法の炎だからと言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、余りに現実離れしている。
あれだけの威力の広域攻撃魔法を使いながら、周りへの影響を抑えるための結界を展開したとでもいうのか。
馬鹿な。あり得ない。
それは人が使い
わが国で最強の魔法士と称される魔法士団長マヌエラその人であっても無理ではないのであろうか。それは神の領域でのみ成せる御業だろう。
「失礼します。斥候部隊の準備完了いたしました」
「分かった。早速、出発してくれ。くれぐれも魔物を確認した場合は深追いはせずにすぐに戻り報告する事と、成果の
「はっ、了解しました」
大きな被害を免れた兵力を使い状況確認のための偵察部隊を森に入れる事にした。
魔物たちの行動が魔族の指示に拠る事は分かっていたが、その魔族が姿を見せない事で対処療法的な対応を繰り返すしかなかったのだ。
しかし、今回最後に現れた異形の化け物。
あれが魔族だとすれば状況は大きく変わるはずだ。
ひょっとすれば、この二年の間、繰り返されてきた終わりの見えない不毛な戦いそのものが終わる可能性すらある。
二年にも渡る戦いを、たった一人の冒険者が終わらせる可能性。
サルバトーリ侯爵は力を見極めて欲しいと言った。
自分としても多くの兵の指揮を任された責任者としての自負はあるし、そのために必要な部下の力量を見定める自信もある。
しかし、あれはダメだ。
例えるなら重さを量る秤で長さを測ろうとするような物だろうか。
正しい結果を得るためにはそのための正しい道具が必要なのだ。
つまり私は彼の力量を正しく見極める道具を持ち合わせていない。
ルカ殿、敢えて非礼を承知で言わせていただきたい。
「無理―――――!!!!!」
しかし、頼まれた以上は何かしらの報告はするしかないだろう。そのためにも話を聞くしかないな。
ロベルトは走り去る兵士の背中を見送ってから、困った事になったものだと半ば諦めの心境で回廊を降りジンの休む部屋へと向い自らの歩みを進めた。
「ちょっとジン、あなた何かしたウッ!」
軽い食事を終え、少し寛いだ雰囲気の漂う部屋へノックも無しにミラが入ってきた。
「えっ?魔物追い払っただけだけど」
「そ、それより何なのよ!あなたの周りの空間、歪んで見えるんですけど。なにそれ?」
言われてマットを見ると普通に肩をすくめて分かりませんポーズ。マットには見えないようだ。
多分、加護の封印を解いたせいだな。なら封印すれば消えるかな。
「
『ゴゥン〜〜〜』
室内に重低音が響きマットが不思議そうな顔をして天井を見上げている。
「な、何したの?歪みは見えなくなったけど」
「ああ、ちょっと蓋しただけ。ごめん、閉めるの忘れてたよ」
「蓋って何のよ!閉めるってどういう事!!」
俺も仕組みはよく分からないし、説明が面倒なんで話を戻しましょ。
「それより何か聞きにきたんだろ?」
「そうだったわ。聖堂に治療に来る兵士が冒険者の奇跡のお陰で自分たちは助かったって言ってるから事情を聞きに来たのよ。話ではハゲてなかったって言うからジンしかいないでしょ」
「おい、俺のはハゲじゃねぇ!」
いや、今突っ込むトコそれじゃないと思うぞマット。
「ちょっと派手に燃やしちゃったからそう見えただけだろ」
「燃やすって魔法で?でもジンは適正出てないのよね?」
「ああ出てない。適性が出なくても使える力もあるんじゃないかな」
「そんな話聞いたことないけど…。まあいいわ。それじゃあ特に変な事はしてないのね?」
「変な事って言われても…」
「とにかく変なことしてアレックス様に迷惑かけたら許さないからね!」
結局、そこかい!
「分かったら返事!」
「はい!」
「よろしい、以後十分注意するように」
そう言うとミラは満足したようで部屋を出て行った。
ん?何で俺、説教されてんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます