第17話 表と裏

『ガチャリ』


 ノックもなく部屋の重厚な扉が開かれる。


 部屋の中にいた老人は座っていた椅子から一旦立ち上がると片膝を突き頭を垂れた。


「前触れもなく突然の登城をお許しいただき感謝いたします」


「よいよい、気にするな。久しいなルカよ。それよりもお前が態々あの街から出てくとは何かあったのであろう?」


 部屋に現れた男はエリュシオン王国国王、ルシアーノ・エリュシオンその人であった。


「はっ、巫女に神託が下りましたので、まずは急ぎお知らせせねばと参内させて頂きました」


「何、神託が。巫女はそなたの孫子であったな。最後は二年前の西の森からの魔族の侵攻であったか。それすら片付かぬうちにまたか。して、此度はなんと?」


「女神の使徒様が降臨なされた、と」


「使徒様だと!女神様は自らの使徒を遣わすほど今の状態を憂いていると申すのか。使徒様は何処に」


「残念ながら場所までは神託にはなかったようです。ただ魔族との戦いの力になるであろうとしか」


「ならば急ぎ探さねばならんが、表沙汰にすれば教会が黙っておるまい。遣り様はあるか?」


「既に私が巫女を伴い王都に入った事は知れておるようでございます。周りが少々騒がしくなってきております故。信用のおける者たちに内々に声をかけ、捜索の範囲を広げていくしかないかと存じます」


「やはりそうなるか。時間はかかるが致し方ないな。分かった。私からも文を託そう。任せてよいか、ルカ。いや、サルバトーリ侯爵」


「心得ました。このルカ・サルバトーリ、微力ながら尽力させて頂く事をお誓いいたします」





「だいぶ上達したと思うんだけど、どうかなオルフェ?」


『だから気軽に話しかけんなっていってるでしょ。連れの男がこっち見てるわよ』


 今日も馬屋に来て連日の乗馬練習中だ。ちゃんと朝から早目に上がれそうな依頼を片付けてから来た。早く二つ星になりた〜い。ベムの気持ちがわかるかも。


 昨日は一日頑張って、感覚を忘れないうちにと思ったからだ。鉄は熱いうちに打てだな。


「えー、でもオルフェに感想聞くのが一番確実でしょ」


『そりゃそうだけども、普通馬と人間は喋らないでしょうに。アタイまで変な馬扱いされるのは勘弁してもらいたいのよ』


「ふーん、変なとこ気にするんだな。そういえばお前、昨日も今日も馬場ここにいて仕事してんのか」


『失礼ね。ちゃんとやってるわよ、楽そうなの選んで。ここの主人は私達を客に見せながら商談する事が多いから仕事の内容も筒抜けよ。てか、アンタ乗せてるのも立派な仕事だから』


「他の馬も人が話してる事は解ってるのか?」


『解ってはいるだろうけど私やネロみたいのは少ないわよ。大抵は何にも考えないで走って食ってるだけ。牡だと一発やらせろって言って回ってるのもいるけど』


「馬も結構大変なんだな。草食ってボーっと馬面晒してるだけだと思ってたよ」


『馬面晒してって何!馬なんだから馬面なのは当たり前でしょ!』


「まあ、まあ、まあ。で、俺の乗馬テクはどうなの?」


『テクも何もあんた普通に喋って命令してるだけでしょうに。余計な動きで邪魔しないだけマシってところね。そうだ、ジルってがね、左の後ろ脚の具合が悪いらしいの。あんたから主人に伝えてくれないかしら。全然、気が付いてくれなくて』


「昨日も今日も世話になってるからそれくらいなら問題ないぞ。戻ったら伝えとくよ」


『助かるわ。あんたみたいな変な人間でも役に立つこともあるのね』


「それこそ失礼だろが!明日も乗りに来るから逃げるなよ」


『ヒィィ』



 今日も静かに牧場まきばの陽が暮れる。

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