第24話 事情

 見張りが交代になるまで散々突っ込まれたが、のらりくらりと明言や断定を避けながら何とかやり過ごせた。秘伝の魔法と言えば大抵何とかなる世界はいいもんだ。


 夜が明けて朝飯を摂りながらラントが俺の希望を皆に伝えてくれた。死んでいてもおかしくない状況を生き延びた対価は俺の魔法を口外しないだけ。各自の報酬も問題ないんだから異論なんて出ようがない。


 俺としては貴重な戦闘を経験できたし、力も試せたんだから十分だ。winwinだな。


 歩けないほど状態が悪い人もいないかったけど、森の中を半日歩くのはしんどそうな人もいたんで街道の傍まで転移した。俺がめんどくさかっただけなのはヒ・ミ・ツ。いやー、力が使えるとホント楽。


 街まで跳んでも良かったんだけど、目撃者を増やすのは好ましくないんでそこは半日歩きます。




  街の入り口で衛兵に早い帰りを驚かれたが無事に街に帰還できた。


 ギルドへの報告はリーダー役のラントに任せみんなとはギルド前で解散となった。報酬は明日の昼までに各自のギルド口座に振り込まれるらしい。燃やした小鬼ゴブリンは耳切ってないけどどうなるんだろ。金には困ってないからどうでもいいけど。


 宿へ向かう道でアレックスの表情が固い。中々、凄惨な現場だったから参っちゃっても仕方はない。今日は美味いモノ食べて早く休ませてあげたいな。


「ジン様、この後に少し時間をいただけませんか。お話しなければならないことがあります」


 そんな風に考えながら宿まで帰り着いたらアレックスから話を切り出してきた。様呼びに戻っちゃってるじゃん。


「ん?いいよ。メシ食べながらでもいいけど」


「いえ、できれば部屋の方で。二人だけでお願いしたいのですが」


「了解。でも、取り敢えず風呂入ってからにしよう。そっちの方がゆっくり話できるでしょ」


 宿の風呂はそこそこ立派だ。5人くらいは入れる広さがあって十分寛げる。露天があれば最高だけど、元々そういう発想がないらしい。家風呂さえも一般的じゃない世界ですから。


 部屋に戻ってスポーツドリンクをアレックスに渡して椅子に座る。討伐遠征で見せちゃったから解禁です。


「で、話って何?」


 アレックスは手の中のペットボトルを見つめていた視線を上げて話し出す。


「私はジン様に謝らなくてはなりません。私はジン様の手伝いをするためだけでなく監視のために側仕えをしていました。申し訳ありませんでした」


「今更気にする事ないよ。そうだと思ってたから。何で話す気になったの?バラしちゃったら拙いでしょ?」


「はい。今回の遠征で目にした物が凄すぎて、私には判断する事は無理だと思ったからです。私の立場では有りのままをバラン様に報告すべきなのでしょうが、あの場でジン様の力を口外しないとの誓いがなされ、バラン様への報告は誓いに背きます。今回はジン様の了承なしに話をするのは困難と判断しました」


「何だそんな事か。気にしなくていいのに。誓いなんて所詮、口約束だから遅かれ早かれどっかからは漏れるよ。俺的には必要以上に騒がれたくないからお願いしただけだし、力を使ったからにはそこそこ諦めてるから。マット辺りなら酔っ払って酒の肴でもう話してるんじゃない?」


「とんでもない。冒険者の誓いはジン様が思っておられるよりも遥かに重要なのですよ。誓いを破れば冒険者仲間や雇い主からは信用を失い、その後の仕事に大きく影響します。誓いを守れない冒険者など雇いたいと思う者も組みたいと思う者も多くはないのです」


 守秘義務みたいなもんか。業務上知り得た情報を漏らしてはならぬってとこだな。


「へぇー、結構シビアなんだね。そうすると俺にバラしちゃったアレックスの方がヤバくない?」


「そうですね。雇い主の許可もなく事情を話している訳ですから雇用人としては失格でしょう。ですが今回は誓いの内容の方が重要と判断してお話しさせていただきました」


「信用して話してくれたんだ。ありがとう。でも、俺のやった事ってそんなに拙いのかな」


「拙いと言いますか、転移にしても余りに圧倒的過ぎて普通なら誰も信じないレベルです。事が公になれば間違いなく王宮に呼び出される事になるでしょう。バラン様に報告が上がれば侯爵様にも報告が行きます。まずは侯爵様に呼ばれる事になると思います」


 面倒な匂いしかないんですが逃げてもよかですか。




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