第48話 獣人?
「それでは主の準備が出来ましたらお声がけさせていただきますので、それまでこちらの部屋でお寛ぎください。ご不明な点が御座いましたらそちらのベルを鳴らしていただければ対応させていただきます。では、失礼いたします」
そう言って一礼すると部屋を出ていくメイドさん(?)を見送る。
「何だ、獣人見た事ねえのか?」
淹れてくれたお茶を口に運びながらマットが不思議そうに聞いてきた。
くっ、なめるなよ。俺は(元の)世界で最も獣人に造詣が深いであろう日本人だぞ。だからこそ言わせてもらおう。
「獣人!あれが?獣人てもっとこう人にケモミミ付いたような…語尾のニャは?」
「ケモミミ?ニャ?何だそりゃ?よく分からんがお前が言ってるのは多分ダブルだろ。人と獣人の子供は人に寄る事が多いからな。ありゃ
そう、今美しい所作でお茶を淹れてくれたのはメイド服を着た人サイズの大きな猫でした。
若干、人の雰囲気はあるものの、首の上に乗っているのはCat'sのメイクを更に猫寄りにリアルにした感じ。ベースはソマリ辺りかな。
獣人と人間が結ばれるのは獣人国ライカンを訪れた人間が住み着くケースが多く、純血の獣人が国の外に出て暮らす事は殆どないそうだ。
その反動なのかその子供のダブルは外に出て人間社会に入る事も多く、街中で獣人といえば普通ダブルの事らしい。
獣人国はダブルには生きにくい社会なのかもしれない。
でも確かにあれはあれでモフモフ天国が楽しめて……
でも違ーーーう!!!
俺の理想の獣人娘はもっとコケティッシュで時々台詞を噛んで『ごめんニャ』とかテヘペロが似合うタイプなんだよ!
上品な毛並みの見た目猫で人語をスラスラ喋るんじゃそれは猫又なんだよ!
うむ、そういう世界だと納得するしかないが、俺のささやかな夢を打ち砕くとは許せぬ所業。まだ見ぬダブルに希望を託しながらも
暫く時間を置いて再び部屋を訪れたメイドさんに付いて移動すると、応接室らしき部屋に案内された。
部屋には貴族らしい服装に着替えた侯爵と、旅装のマントを外しただけの伯爵がいた。
「これからの予定の確認だ。まずは座れ」
促されて席に着く。
「私は明日朝に謁見の申し込みに城に行く。早ければ明後日には謁見の運びになるだろうからそのつもりでいてくれ。もちろんロベルトも一緒だ」
「はっ」
「ジンとマットはそれまでは決して屋敷は出ないようにしてほしい」
「何か問題でも?」
「残念ながらこの状況を好ましく思っていない輩がいると言う事だ」
「教会…ですか?」
「うむ。彼奴等は教会以外が神の言葉を伝える事を認めていない。二年前もそうであった。西の森での魔族侵攻の神託をいち早く伝えたにも関わらず教会以外に降ろされた神託を否定し派兵を妨げ、遅らせたばかりにあたら無為に民の命を犠牲にしてしまった。前回に続き今回も神託の正しさが証明されたなら教会は権限の一角を失う事になるだろう。奴らも必死なのだよ」
「そんな奴ら排除できないんですか?」
「民衆への影響力が大きすぎてな。その力にすり寄る貴族もいる。今までの歴史的な経緯もあり王も無下にはできないのだ。簡単ではないのだよ」
やっぱり宗教は厄介だ。いや、厄介なのはそこに寄生する奴か。
「ふーん、なら逆に明日は街に出させて下さい。相手の出方を見たいんで」
「危険だぞ?どんな手を取ってくるか分からんのだからな」
「勝手の分からない王宮で仕掛けられるよりはマシでしょ。街中の方がやりようもありますよ」
「うむ、ジンの力であれば問題は無いのかもしれんが…。民を巻き込む事だけは避けねばならんぞ」
「その辺はちゃんと考えますから。だから全て自己責任って事で街に出させてください。ここまで来ちゃってれば遅いか早いかの違いだけですから」
「ジンがそこまで言うのなら任せよう。だがアルスは連れて行ってくれ。さすがに一人という訳にはいかん」
「それくらいでしたら。何ならマットも一緒ですし」
「えっ、俺!俺もなの?勘弁しろよ〜。あっ、失礼しました」
突然の指名に驚いてマットが声を上げたところで空気が緩み打ち合わせは終了となった。
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