第31話 適性鑑定
翌日の昼前にバランさんが宿まで迎えに来てくれた。当然アレックスも一緒に教会へと向かった。
教会に着くと話は通っているのか袖廊の奥に設けられた一室へと案内される。
中には穏やかそうな神父が一人待っていた。
「バラン様、本日はようこそおいで下さいました。私はローバー教会司祭のコノンと申します」
「うむ。連絡した通り今日はこの青年、ジンの職業鑑定をお願いしたい。宜しく頼む」
「はい伺っております。では、ジン様こちらへどうぞ」
案内された部屋の右隅には直径15センチほどの透明な玉が紫の座布団の上に置かれていた。
ガラス?水晶?
「では、この上に右手を乗せてください。乗せたら目を瞑り動かないようにお願いします」
出た、オーパーツ。仕組みを知りたいけど、たぶん聞いたら怒られるヤツだな。
言われるままに手を乗せ目を瞑った。
冷たそうな玉から温かい何かが流れ込んでくる。それが全身に行き渡ったかと思うと一気に引いた。ほんの30秒程度の事だった。
「はい、ありがとうございました。もう手を離しても大丈夫ですよ」
コノンの指示に従い玉から手を離そうとした瞬間だった。
『とっとと来なさい!』
スクラの声が頭に響く。うむ、見つかってしまったようだ。やっぱり怒ってるし。
「どうかされましたか?」
一瞬ビクッとした動きを見咎められ心配されてしまった。
「いえ、ちょっと眩暈がしただけですから」
「そうですか。では鑑定結果を確認しますので少しお待ちください」
そう言うとコノンは玉に両手を翳し難しい顔をして玉の中を覗き込む。
どこの占い師だよ。代々木辺りにいそうだな。
「ふむ、ジン様の適性は…」
「適性は?」
「特にありません」
「「「!!!」」」
「残念ですが特に適性の高い職業は無いようですね。よくあることですからあまり気落ちせず今の仕事に励むのがいいでしょう」
適性鑑定が一般的でない理由。費用が高い事もあるのだが今回のように適性が出ない事が多いのもその理由の一つなのだ。
つまりこれは『あなたは特別な才能がない
高い金払ってモブ宣告受けるなんて目も当てられないが、どんな職業であれ才能を持つ人がゴロゴロ転がっている訳もないので当然と言えば当然の結果なんですよ。
因みにネタ元はアレックスです。
「そうですか。ありがとうございました。バランさん、せっかく鑑定して頂いたのに結果が出せずに申し訳ありません」
「いや、ジン君が謝る事じゃない。気にする事はないから」
そう言いながらバランはまったく納得していなかった。なにしろ討伐遠征の出来事を知っているのだから。
話半分としても魔法士としての十分な力があるはずだ。それを特筆した能力と言わずして何をもって言うのか。
過去の例を見ても生活魔法を超える強い魔法が使える者は『魔法士』と鑑定され、それをもって魔法士団の扉を叩くものだ。
この結果では魔法士団は歯牙にもかけぬであろう。彼は転移魔法すら使えるのに。
この結果はおかしい。必ず裏に何かあるはずだ。それが分かるまでは彼を手放すべきではないと結論づけるバランであった。
「じゃあ、せっかく教会に来たんだから礼拝したいんですがいいですか?」
このまま帰ったら
「あ、ああ、それがいいだろう。私も付き合おう」
そして三人は女神の彫像の前で跪き頭を垂れた。
Side コノン
ふむ、今回の鑑定は少し変な感じだったな。
覗き込んだ玉に職業が浮かぶことはなかったが片隅には妙な模様が浮かんでいた。
職業以外の物が浮かび上がる事は稀ではあるが無いわけではない。
それは被鑑定者の念に起因するもので、大概は職業に影響のない単語であるので本人に告げられる事はない。
コノンも前例に倣い、模様の事を告げる事はなかった。
仮に告げたとしても『奇妙な模様』としか伝えられないのだから。
ジンが玉を覗くことが出来たなら、それが模様などではなく文字である事が分かったであろう。
そこに浮かんでいたのは人の能力を超える力を持つ者を表わす漢字。
『超能力者』と。
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