第34話 指名
教会でバランさんとは別れ、アレックスと二人でギルドに向かう。
相変わらず空いてる受付は一つ。
「ギルドマスターに会いたいんですけど」
「ふん、取り敢えず生きて帰って来たんだね。でも調子に乗るんじゃないよ。お調子者は長生きできないんだからね。階段上がって右の奥。さっさと行きな」
窓口を離れる時にミランダが少し微笑んだ気がした。やっぱりこの人は口は悪いけどいい人みたいだ。感情表現が不器用なのって苦労するよね。
「おお、来たか。入れ、入れ。鑑定はどうだった」
俺たちを部屋に招き入れ、自らも応接セットに移るとマックスは聞いてきた。
「特に適性はないそうです。今の仕事を続けるのがいいだろうって」
「そうか、何も出なかったか」
腕を組んで首をひねりながら少し考える。
(
そんな事を考えながら昨日の侯爵とバランのやり取りを思い出す。
「もし結果が出なかったらどうなさるおつもりですか」
「西の森に行ってもらおうと思う」
「西の森!あそこは未だに魔族との小競り合いが続いているのではありませんか?」
「そうだ。昨年からは王国の第三軍が迎撃のために詰めている。確かに危険はあるがジンの力を試すならうってつけの場所だろう。しかも団長のソーンバーグ伯爵は信用できる男だ。事情を説明しても問題ない相手だ」
「そうすると彼をどう説得するかですね」
「何を言っている。ジンは冒険者だぞ。相応しい依頼をするだけだ。それにはマクシミリアン、協力してもらうぞ」
実力を確認するために魔族との小競り合いが続く戦地へ送り込む。
ジンが使徒であるなら問題ないであろうが中々に過激な手段だ。
思い返したそんなやり取りを明かす訳にもいかずマックスは話を続ける。
「まあ良くあることだ気にするな。それよりもジン、お前は昇格だ。
おお、三つ星!これで一人前って事だな。
と、喜んでばかりはいられない。
うまい話には裏がある事くらい俺でも知ってる。
「で早速、指名依頼だ」
やっぱり。
指名依頼。普通は冒険者が依頼を選ぶのだが、稀に依頼主が冒険者を指定して依頼を出すことがある。
もちろん依頼をこなすのに相応しいと判断できるから指名するのであって、受ける冒険者もある程度の実績と実力がある者となる。
ギルドの規定では三つ星以上であれば指名する事が可能となっているが、実際の指名は五つ星か六つ星でしか発生しない。
なぜなら指名依頼は通常依頼より報酬が高額となるからだ。高い金を払ってまで指名するのは困難な依頼の達成確率を上げたいからであり、三つ星程度でこなせる仕事にわざわざ高い金を払う依頼人はいない。
もちろんネタ元はアレックスです。
そんな現状で俺への指名依頼。名誉な事ではあるが、厄介でない訳がない。
「いきなりですか。誰からです?」
「ルカ・サルバトーリ侯爵。ファジールまでの物資輸送の護衛を頼みたいそうだ。もちろんお前一人じゃなく他のパーティーも一緒だがな」
やっぱりそうなるよな。これ、断れないよね。トホホ。
「そうか、適性は出なかったか」
領主邸のルカの私室でバランから鑑定の報告が伝えられていた。
「はい。以前のアレックスからの報告にあった体が光を帯びる現象も確認できませんでした」
「残念ではあるが仕方なかろう。まずは昨日の打ち合わせ通りに頼む」
「は、畏まりました」
「やはり、そう都合よくにはいかんものだな」
ルカは窓の外を眺めながら誰に問いかけるでもなく呟いた。
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