第6話 ローバー

 街には1時間ほどで着いた。着いてしまった。ジョギング感覚で軽く走っただけなんだが。ポンコツ仕様の匂いがプンプンするのは何故だろう。



「旅の途中で頼まれた物を届けにきたんだけど」


 街の入り口の検問で衛兵に聞かれたので答える。


「身分証はあるか?」


「旅の途中なんで何も持ってません」


「では銀貨一枚必要だ」


「そうだこれ。これを見せろって言ってた」


 預かった指輪を衛兵に見せる。


「ん、この紋章は。何故、お前がこんな物を持っている」


「いや、これをこの街のバランさんに届けてくれって、ルカっていう爺さんに頼まれたんだよ。街に入る時に役に立つって聞いたんだけどダメだった?」


「バランさん?ローデリア商会のバラン様の事か?」


「そうそう、そんな店の名前も言ってた」


「うむ、ひとまず部屋で待ってもらうか。商会に確認させてもらう」


 ん?役に立つどころか面倒くさくなってないかこれ。爺さんに嵌められた疑惑が。



 待たされる事30分


「確認が取れた。商会から迎えが来ているから一緒に行くように」


 部屋から出て連れていかれた先には絶対リア充な青年と馬車が一台。


「ローデリア商会のアレックスと申します。お待たせして申し訳ありませんでした。早速バラン様の下にご案内させて頂きます」


 くっ、名前もなんかカッコイイ。イケメンだからか?イケメン効果なのか?


「態々、すいません。でも店を探さないで済んで良かった。この街広そうだから」


 馬車に揺られながら街の景色を眺めること数分。


「お待たせしました。ではこちらへどうぞ」


 アレックスに促され馬車から降りると目の前の立派な建物の三階に案内された。


「アレックスです。お連れいたしました」


「入って頂きなさい」


 精緻な彫刻が施された一枚板の重厚な扉の中は、ゴテゴテとした嫌味な派手さは一切なく、シックで落ち着いた雰囲気で纏められいるが、高級品であることに疑いはない品が漂っている。


 そして部屋の中央奥にある机の向こうにそのジェントルマンはいた。


 はい、この人お金持ち。間違いなくお金持ち。見た瞬間に分かります。


 ブラウンのスーツをビシッと着こなし、ピンと伸びた背筋。立派な口髭を蓄え、ロマンスグレーの頭髪は丁寧にオールバックで撫でつけられている。紳士の見本みたいな人がいた。とにかくジェントルマンなんです。


「お出迎えが遅れて申し訳ありませんでした。どうぞこちらにおかけ下さい」


 目の前のフカフカなソファーに座る。うおっ、沈む。


「私がローデリア商会のバランです。ルカ様よりの届け物をお持ち頂いたと伺ったのですが、拝見させて頂いても宜しいですか」


「あ、はい。私はジン。ユウキ・ジンと言います。預かったのはこの指輪です」


「ふむ、これをジン様にですか。預かった時の状況をお聞きしても?」


「はい」


 盗賊の顛末を知る限りで説明した。


「なるほど。ジン様がルカ様達の命を救ったということですね」


「結果だけを見ればそう言えるかもしれませんが、殆どは護衛の人達のお陰でしょう。一人はそのために亡くなったようですし。私は最後の数瞬に偶々、居合わせただけです」


「仮にそうだとしても、ルカ様にお力添えいただいた事に変わりはありません。そして私に大切な物まで届けていただいた。私がお礼をさせて頂くには十分な理由です」


「そうだ、これも渡しておきます」


 三枚の金貨を机の上に置く。


「この金貨は?」


「ルカさんに渡されたんですけど、いらないようならバランさんに指輪と一緒に渡せばいいと言われましたから。ありがたいですけどお気持ちだけ頂いてこれはお返しします。路銀は自前で準備したのがまだありますから」


「ジン様、貴方は・・・。いえ、分かりました。私が預からせて頂きます。そういえばジン様は旅の途中と伺っていますが、宿はどこかお決まりですか?」


「いえ、まだ。街の入口からここに直行でしたから」


「では、せめて宿はこちらで用意させてください。私もルカ様の手前、何もしませんでしたでは済みませんから。私を助けると思ってお願いします」


「そうですね。それは私も助かりますからぜひお願いします」


 異世界での最初の宿はあっさりと決まった。ラッキー

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