第12話 知らぬ所で

「何!それは本当か」


「はい。神父はジン様に背を向けていたので気付いていないようでしたが、入り口脇に立っていた私からはハッキリと跪いたジン様の身体が光るのが見えました」


「まさかそんな事が。それでお前は彼がスクラ様の加護を受けたかもしれんと言うのだな」


「宿への帰路に加護について尋ねられました。加護については何もご存じないようでしたのに、急に加護について思い至るのは些か不自然かと。ですので祈りにより加護についての何らかの啓示を受けられたのではないかと思います」


「うむ・・・。それで今はどうしているんだ彼は」


「既に宿に戻られております。本日はもう休み、明日からはギルドで依頼を受けると仰られておりました」


「新人が受けられる依頼ならば街中の仕事だろうな。街を出る心配はないか。しかし油断はできんな。今晩からお前も白金亭に部屋を取り、できるだけ一緒にいるのだ。目を離すな。私との連絡にはトニーを付ける。また何かあれば直ぐに知らせてくれ。今まで以上に注意するのだぞ」


「はっ、畏まりました」



「ルカ様はこうなる事を知っておられたのか・・・」


 アレックスが部屋を去り、独りになったバランは誰に問うともなく呟いた。




 宿で夕飯を食べてたらアレックスが来た。さっき帰したばっかりなのに。

 因みに今日のメインは猪肉のステーキだ。昨夜は鹿肉の煮込みだったな。流行ってるのかジビエ?オーク肉食べたいのに。


「今晩から私もここに部屋をとることにしました。何かあればいつでもお声掛け下さい」


「そうなの?でも、気が休まらなくて大変じゃない?家族とか大丈夫?」


「私は独り者ですので家に帰らなくても困る者はおりませんし、帰っても寝るだけですから、場所が変わるだけですよ。ここの部屋の方が寝心地が良くて感謝したいくらいです」


「それならいいんだけど。じゃあ取り敢えず一緒に食べようか。食事は一人だと味気ないから」


「では、ご一緒させていただきます」



 当たり障りのない世間話をしながら食事を終えて部屋に戻った。


 ふむ、何で見張りが強化されたんだ?これって明らかに警戒が強まってるよな。何かやらかしたかなぁ。元々のVIP待遇だって意味が分からんのに何が変わったんだろう。


 共鳴エンパスで頭の中を覗くのは簡単だけど、そこまでする事もないだろう。個人情報は気軽に覗くものじゃない。俺だってそれくらいは配慮するしできますよ。敵対するなら遠慮はしませんけど。


 買い物か!買い過ぎたのか!そういえばマルロのオッサンが革鎧も剣もいい物だって言ってたな。やっぱり高すぎたか。だから自分で払うって言ったのに。きっと無駄遣いをみすみす許して怒られた罰だなアレックスは。可哀相な事をしてしまった。


 教会でのスクラからの無茶振りなどすっかり忘れているジンであった。お気楽。




 翌日は朝からギルドへ向かった。この世界での初仕事だ。楽しみでちょっと早起きしちゃったよ。


 ギルドは人で溢れていた。活気が凄い。いい仕事は早い者勝ちだからだ。特に子供が目立つ。ベテランは街の外での長期間の仕事が多いからそんなに慌てる事はないが、受けられる仕事が限られている新人は仕事の取り合いなんだ。街中の日雇い仕事はその日に求人が行われるのが殆どだから、毎朝チェックしないといけないそうだ。


 子供たちの仕事を奪うようなさもしい真似はできないので、ギルドの隅で暫し落ち着くのを待つことにした。


「おう、昨日の新人じゃねぇか。こんなとこにいたら仕事が無くなっちまうぜ」


「ああ、昨日の。子供たちが落ち着いてからと思ってね」


 ミランダの事を教えてくれたオッサンだった。

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