第37話 砦

 翌朝早くに村を出た俺たちは昼過ぎにはファジールが見える場所までたどり着いた。


 しかし、俺たちは街の壁を横目に見ながら更に先へと進む。向かうはファジール砦。


 二年前に西の森から溢れ出た魔物を防ぐために街と森の中間に築かれた防衛拠点だ。


 街を過ぎると景色が変わった。緑は殆どない荒れ果てた荒野のそこかしこに魔物の死体が転がっている。正に『荒涼とした』と形容するのが相応しいだろう。


 魔物は月に数度、数百体規模で森から攻め出てくるそうだ。森の中はどうなっているかは誰も知らない。調査隊は誰も戻って来ていないから。



「よく来てくれた。これで一息つける。私が王国第三軍団長のロベルト・ソーンバーグだ」


 日暮れ前に砦に辿り着いた俺たちを出迎えてくれた砦の主は、まるで熊のような大男だった。


「サルバトーリ侯爵様よりお預かりした荷物をお持ちしました。ご確認ください」


 管理者役のアレックスが目録を手渡す。


「うむ。して聖女様は?」

「こちらに」

「ミラです。宜しくお願いします」


 後ろからアレックスの横に進み出て挨拶をする。

 こうしてれば美人なんだけどな。

 うっ、睨まれた。


「長旅で疲れているところ申し訳ないが早速兵どもを見てもらえないだろうか。三日前の戦闘でかなりのけが人が出て手が足りておらんのだ」


「勿論です。私はそのために来たのですから。皆さんはどちらですか?」

「おい、聖女様を聖堂へ案内して差し上げろ。では、宜しくお願いします」


 小娘と軽んじることなく丁寧に対応してくれている。結構、いい人そうだな。


 俺たちは今日は砦に泊り、明日は俺とミラを残して一旦ファジールの街まで戻る。街で帰りの荷物を手配し二週間後に俺とミラを拾って帰路につく予定だ。


 俺が砦に残るのはもう一つの依頼があるから。

 滞在中の聖女の身辺警護と防衛活動への協力。

 三つ星の俺よりマット達の方が役に立つと思うんだが。


 たった二週間の助っ人だが、昨年この砦が出来てから激しさを増した侵攻により、兵士は勿論だが数が少ない回復役ヒーラー達の疲弊が激しいようだったので、それなりの効果は見込めるようだった。




『トントントン』


 指令室の扉を叩く音にロベルトが書類から目線を上げる。


「入れ」

「失礼します」

「キースだったか?まだ何かあるのか?」

「侯爵様からの私書をお持ちしました」

「サルバトーリ公からの私書?一体何を…」

「それは私も存じ上げませんがこちらを」


 キースは懐から取り出した手紙をロベルトへ渡す。

 手紙にはジンがバランの下へと運んだ封蠟が施されている。


 印を確認したロベルトは一瞬険しい顔を見せるが、そのまま封を切り中を確認した。


「ふむ、ジンとは一緒にいた黒髪の青年の事か?」

「はい。ジンが何か?」

「ルカ様はジンを聖女様と一緒にこの砦に留め置き、その間は一切の制限を設けず好きにやらせろと。そしてジンの力を見極めて欲しいそうだ」


 読み終わった手紙をキースにも見える様に机の上に置く。


「どういう事だ?奴は何者だ?」


「それは私も存じ上げません。ただ、優れた魔法の才をお持ちの冒険者です。私もルカ様もその力で助けられました。ですのでその力が魔物の侵攻を退ける一助となるとお考えになったのではないでしょうか」


「西の森の魔物は強いぞ。冒険者の魔法程度が役に立つとも思えんがな。だが良かろう。冒険者一人が勝手に動いた所で大勢に影響はあるまい。ただし勝手に動く限り助けは期待するなよ。冒険者の為に兵を犠牲にするつもりはないからな」


「はい、それは当然です。私からもジンに伝えさせていただきます。では失礼いたします」


 一礼して部屋を出ていくキースを見送るロベルトは心の中で呟いた。


(ルカ様が目をかける冒険者か。面白い)



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